忠津:その一方で、これはあくまで私見ですが、以前は少なからず属人的になっていた部分もあったように思います。店舗の人事や上司がたまたま活躍ぶりを見知っていた人材が登用されるというケースが結構あって。結局、かつて一緒に仕事をしていた誰々とか、気が付いたら自分と相性の良いメンバーだけを集めることになってしまうんですよ。そうすると、意思疎通が良いのはいいんですけど、新しいことは生まれにくい。

小野寺:「半径30mは気持ち良いんだけれど、大海原に出ていくと厳しい」ということは、御社に限らずよくあるかと思います。というか、多いです。

忠津:仲良し集団になっちゃうんですよね。独自の世界ができちゃって、なぁなぁになったり、厳しさがなかったり。組織としては弱いですよね。

 みんなでちょっとずつお互いの裾を踏み合って、動けなくなってしまって。「あんたが踏んでるんちゃうん」「いや、私も踏んでるけれども、私の裾、あんたも踏んでるよ」って。そうして、「裾踏まれてるから出られへん」って。それではダメなんですよね。居心地良く、ちょっとずつみんなで沈んでいってしまう。

小野寺:そういう画一的な集団になってしまうと、短時間勤務の方などは余計に受け入れられにくくなって、インクルージョンが実現し辛いですね。

忠津:属人的な登用をしていると、目の前のお庭の範囲しか見えていないので、あまり外れもないけど、大当たりもないんです。今後はタレントマネジメントという客観的な指標を持って、人事がしっかり見ていきます。ただ、人事も8000人の動向をすべて逐次チェックすることは現実的にできませんので、全社人材(早期選抜でプール化された人材)を300人に絞りますよ、とそういうことなんです。人材プールをつくれば、役割に意識的に、スピードを上げてつけることになり、女性のロールモデルの輩出も進むと期待しています。

「派手ではないが、真面目に変わる」

 長い歴史を持つ店舗の閉店ニュースが後を絶たない、百貨店不況ともいわれる今日この頃。購入のチャネルが多様化し、中国からのインバウンドもあっという間に「もの」から「こと」へ転換したようだ。

 大丸松坂屋百貨店はこれまでと百貨店の在り方を変える方向に踏み切った。

 忠津さんからまず問われたのは「もう百貨店、行かないでしょ?」。「う~ん、行かなくはないですけど…」「デパ地下は使いますね…」という主婦である私たちの正直な声。このままだと「じわじわ死んでいく」けれど、じわじわだからなかなか危機感が立ち上がりにくい。この改革の是非は私の専門外なので言及は避けるが、忠津さんの語り口調からは、「これが生き残る道なんだ」という力強さを感じた。

メッセージが届くのは、早くて1年半後

 私がこの改革に本気を感じたのは、同時に組織人事も大きく舵を切っているから。やりたいことは決まったが、やりたいことができないのは、組織や人がそこに追い付いていないせいであることが多い。更に組織人事施策は、効き目が出るまで時間がかかる。

 連載開始の冒頭で「人事制度は社員へのメッセージ」だと申し上げた(こちら)。それが届くまでにどのくらいかかるのか。

 例えば人事制度は設計プロセスに約半年、その後の仮運用で約半年、本格運用が根付くまでに更に半年かかる。約1年半かけてようやくその制度が根付き、社員が新しい見方をし始める。

 採用でいえば、新たな要件で採用した人物が一人前になり、狙った成果を創出し、周囲との協働が図れるまでに最低でも数年はかかるだろう。育成でいえば、もちろん1回の研修だけでは成果は出ず、日常業務との地道な接続をし続けることが必要になる。

 大丸松坂屋百貨店はこれまでの「平等に一律で育成する」「販売が好きな人だけを採用する」ことを改め、タレントマネジメントを導入し、採用・育成・異動配置の改革に踏み切った。しかもブラックボックス化しやすい経営層から着手している。忠津さんいわく「派手ではないが真面目に変わる」。その通りだと感じる。

企業戦略やビジネスモデルの転換期には、人事施策と必要な人材像も当然、変化する
企業戦略やビジネスモデルの転換期には、人事施策と必要な人材像も当然、変化する
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 まだスタートしたばかりだそうだが、ここから社内に違和感が広がることは想像に難くない。改善はそこにいる人たちを心地よくするが、改革は「これまでと違う」という違和感を醸成する。

 大きなお世話ながら、ここから要になるであろうことを二つ。一つは、現場を預かるマネジメント層への施策だ。グループ内で積極的な配置異動をして自らの視野を広げてもらいつつ、部下のタレントを見極め、適切なジョブをアサインできるようにならなければならない。

 もう一つは、女性社員に対する施策だ。これまでは手厚い「両立」支援により高い復帰率を実現してきたが、今後はいっそう「戦力化」に舵を切る必要がありそうだ。

大丸松坂屋は、販売業務の棚卸しを行い、短時間勤務でも働きやすい体制にしたことで、ワーキングマザーを現場の即戦力にするところまで達成できた
大丸松坂屋は、販売業務の棚卸しを行い、短時間勤務でも働きやすい体制にしたことで、ワーキングマザーを現場の即戦力にするところまで達成できた

 取り急ぎの「即戦力」でなくても良い、中長期的に企業の中核を担っていく本質的な戦力をいかに育成していくか。そう考えると、タレント社員にはライフイベントで長期離脱されては困る。

 そのためには、結婚や出産という大きなライフイベントが視野に入らない若手の段階から「ちょっと難しいけど面白い仕事」を任せ(前倒しでのジョブアサイン)、経験値と意欲を高めておくなど、先手での打ち手が必要となる。サブシステムの変更もにらみながら、ワーキングマザーたちの飛躍を応援したい。(小野寺友子)