前回から読む

 企業の変革を支えるのは人事制度。旧来の百貨店の業態転換を進める大丸松坂屋百貨店の事例を、組織開発コンサルタントとして、ブリコルールとブーケの2社を経営する小野寺友子取締役、広報担当の平田麻莉、ふたりのワーキングマザーが聞いていく。今回は後編、百貨店の社員の大半を占める。女性社員の育休、復帰制度について伺う。聞き手は小野寺友子、平田麻莉。

小野寺友子(BRICOLEUR 取締役、bouquet 代表取締役)
富士銀行、バルス、リンクアンドモチベーション、プロジェクトプロデュースを経て、現職。組織開発コンサルティング企業BRICOLEUR(ブリコルール)と、ダイバーシティ&インクルージョンをテーマとした女性活躍推進コンサルティング企業bouquet(ブーケ)の2社を経営する2児の母。


平田麻莉(BRICOLEUR 広報、フリーランスPRプランナー、ライター)
ビルコム新卒一期生として、国内外50社以上のPR業務および自社の事業推進に従事。ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、慶應義塾大学ビジネス・スクール修了。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程在籍中に出産し、退学。現在は、2児(1名は待機児童)を育てながら、リモートワーク・パラレルワーク・カンガルーワークの実験中。

営業改革により、9割の復職率を実現

インタビュー風景。写真左から、J.フロントリテイリング執行役員 業務統括部グループ人事部長 忠津剛光さん、大丸松坂屋百貨店本社業務本部人事部部長 重田和美さん、聞き手の小野寺友子、平田麻莉(カンガルーワーク実験中。今回快くご対応をいただきました)
インタビュー風景。写真左から、J.フロントリテイリング執行役員 業務統括部グループ人事部長 忠津剛光さん、大丸松坂屋百貨店本社業務本部人事部部長 重田和美さん、聞き手の小野寺友子、平田麻莉(カンガルーワーク実験中。今回快くご対応をいただきました)

小野寺友子(以下小野寺):前回は、業態改革に伴う人事制度の変化について伺いました。百貨店という業態の特性上、女性社員への施策についてもお聞きしたいです。女性活躍推進法の施行前の段階で、既に女性リーダー比率が28%と高水準でしたよね。販売員のほとんどが女性なのでしょうか?

大丸松坂屋百貨店本社業務本部人事部部長 重田和美さん(以下重田):販売子会社である大丸松坂屋セールスアソシエイツへの出向者と大丸松坂屋百貨店のプロパー社員を合わせた、約2600名の販売員の約9割が女性です。大丸松坂屋百貨店の従業員の中で見ると、出向者を含む約5700名のうち約6割が女性になりますね。

小野寺:育児休業及び育児勤務が最長6年と長く、その後も子どもの中学校就学月末日まで時短制度が可能と、ワーキングマザーに対して非常に手厚い制度を採用していらっしゃいます。

平田麻莉(以下平田):ろ、6年!?

重田:育休取得率がほぼ100%で、復職率は9割です。

平田:9割、それもすごいですね。それは最近の傾向ですか?

重田:経営統合もあったので正確な推移を確認するのは難しいのですが、しっかり休んで、復帰される方がぐっと増えてきている、という実感はあります。杉谷さん、どうですか?

J.フロントリテイリンググループ広報 杉谷智恵さん(以下杉谷):私が1人目を出産した頃は、妊娠したと言えば、辞める辞めないという会話が一般的でしたが、最近は皆さん「いつ復帰するの?」という会話ですね。

小野寺:大きな変化ですね。どうしてそれだけ高い復帰率を実現できたのでしょう?

重田:2000年初頭に営業改革をした時に、売り場の業務をすべて棚卸しして整理しました。たとえば、それまではお客様と販売員が1対1で接客して、入金して、お包みして、ということをやっていたんですけれども、カウンターに人をたくさん配置して、役割分担するようになりました。そうすることで、お客様にとってのサービスレベルとスピードが向上したのと同時に、ワーキングマザーが復帰しやすくなりました。業務を切り分けたことで、短時間のシフト制でも働きやすくなったのです。

平田:そうか、複数人で役割分担していれば、お客様の応対中でもササッとさり気なく、シフト交代できますものね。

重田:そういうことですね。

小野寺:短時間のシフト制で復帰してもらうことは、企業側にもメリットがありますか?

重田:カウンター業務はけっこう大変で、スキルが要ります。慣れていない人が急に応援に入っても、レジ打ちやお包みはスムーズにできません。そういう意味では、短時間であっても経験のあるワーキングマザーに入ってもらえると、即戦力になります。特に催事会場は、北海道展とかだとレジを会場に100台くらい入れるんですけれども、午前中から午後4時くらいまでが大変混雑するので、そこで活躍してくれるワーキングマザーの存在は貴重です。

 「しばらく休んで復職する」って、誰でも不安だと思うんですけれど、当社の場合、「復帰の場として、まずは現場がある」という安心感があります。周りにもママ社員が多いですし、上司も気遣ってくれるというのも、復職率が高い原因だと思います。

平田:6年の育休は素晴らしいなと思う一方で、いわゆる浦島太郎にならずに、復帰して活躍できるのかな~なんて、実は気になっていました。そうして細分化されたお仕事であれば、6年経っても環境変化に影響を受けずに活躍できそうですね。

次ページ 画一的だったキャリアパス