忠津:ではファッション好きの方はどうか。若い方で百貨店に行く人はもはやごく一部で、大多数は駅直結のファッションビルや郊外店に行く時代です。あるいはネット。

小野寺:確かにそうなってしまっていますね。

忠津:そのような時に、従来の百貨店のあり方を極める考え方もあります。ファッションを中心としたオリジナル商品の開発に注力し、最高級の設備とサービスで提供するんだ、と。しかし、それでは一部のマーケットにしか対応できず、お客様が限られてしまいます。

単純にディベロッパーになっただけでは勝てない

忠津:私たちは、新しい百貨店のビジネスモデルを考えなければダメだという考えに至りました。例えばテナント運営です。これまではメーカーと共同で売り場や商品を作っていましたが、それではお客様のニーズやトレンドに臨機応変に対応できません。

 もう一つ、規模の問題もあります。百貨店は駅前の大きな土地に建てるのが定石ですが、もうそんな土地は残ってませんから。もはや百貨店だけで面積を増やして業績を拡大していくという方向性は難しい。ただし、百貨店の周りに小店舗を出したり、ビルを一棟買ってテナントを入れたり、さらには、街全体を開発・整備していくのだ、と考えれば、まだまだ発展の余地はあります。

小野寺:具体例はありますか?

忠津:たとえば、神戸大丸は旧居留地にありますが、その周辺一体を大丸が中心となって開発してきました。昔は古いビルの並んだエリアだったのが、大丸を起点に古い街並みを生かして開発し、一流ブランドに出店していただけている、小さい周辺店舗がたくさんできているんです。歴史のある雰囲気を残しながら、トレンド感のある店が集積する場所として、人を集めています。

 そうした流れの中で、この9月に不動産事業部を新設しました。

平田:ということは、ディベロッパーそのものを目指すことになるんでしょうか。

忠津:方向としてはそうなのですが、我々が、単純にディベロッパーとして勝負しようとすると、資金力では大手の既存ディベロッパーに絶対勝てません。百貨店がやるディベロッパーの強みは何かと言うと、一つは優良な顧客です。根強く私たち百貨店を愛してくださるお客様がいるお陰で、「ぜひ出店したい」と言ってくださるブランドがたくさんあります。

 もう一つは、同じ理由になりますが外商部門です。我々のお取引先には、売上の2割をお得意様で上げているブランドもあります。「百貨店のテナントに入れば、お得意様の販路もセットでついてくる」となると、従来の商業ディベロッパーにはない強みになる。お得意様の中には、私たち一般人が想像し得ないような資産家で、宝飾品や絵画などはもうお持ちで「単に贅沢なものは、これ以上要らない」という方もいらっしゃいます。そうした方には、私たちももっと新しいアライアンス先と組んで、旅行や介護用品、お孫さんに残すものなど、多様な提案をしていけたらと思っています。

 こうした顧客資産をどれだけ活かせるのかというのが、私たちがもし業態を転換したとしても、生き残るためのポイントになると思っています。

優良な顧客資産と外商部門を活かして消費者ニーズに合ったテナントを集め、百貨店を起点に街づくりを進めていく。

これから求められる人材は「カウンセラー」

小野寺:中核がテナント事業へ移行していくと、社員にとっても、新しいスキルセットやマインドセットが必要になりますよね。そのあたりは、いま、社員の皆さんに対してどのような言葉で語られていますか?

忠津:これまでは「とにかく接客や販売が好き!」で、積極的に前に出て行くことが重要でした。これからも百貨店である以上、お客様視点での接客サービスが肝であることに変わりはないですが、自社で販売をしない売り場では、テナントのカウンセラー的役割が求められます。

平田:カウンセラー。

忠津:ええ。たとえば売上を伸ばすための施策でも、販売員の能力開発や、商品の品揃え、店頭のビジュアルマーチャンダイジングなどができるようになってほしい。もちろん、自ら店頭で経験を積んだ上での話です。その経験を踏まえ、カウンセリング視点を持って、テナントへの指導や援助をしていきます。また、経営的視点も必要です。売上に対する経費や人件費のコスト管理や、テナント契約の交渉をするための法律の知識などですね。

小野寺:これは、社員数は減ることになりますね。

忠津:はい。これまでは1店舗あたり500~800人の社員で運営していましたが、テナント型に移行すると100人前後で運営することになります。