あらゆる業種、業態が変化を迫られる時代。企業の仕事が変われば、働く社員に求めるスキルや評価、育成制度も変わらねばならない。ミスマッチがあれば改革は躓き、成功すれば成長を加速できるだろう。人事制度は、企業が生き残るための大きな課題であり、ツールなのだ。

 変革期を迎えた企業がいま、人事制度をどう変えていこうとしているのか。組織開発コンサルタントとして、ブリコルールとブーケの2社を経営する小野寺友子氏、同社広報の平田麻莉氏、ふたりのワーキングマザーが、現場で奮闘する人事担当者に聞く。

人事制度は「社員へのメッセージ」

 企業の人事制度は、「社員へのメッセージ」です。

 会社は社員にこんな期待をしている、こう育ってほしい、それを伝えるツールです。その前提には会社の「目指す方向」があり、それを実現するために作られるべきですし、目指す方向に変更があれば、臨機応変に変えるべきです。ところが、実態は温泉旅館の増築のように、とりあえず事態の変化(女性活躍推進、採用環境悪化、高年齢層の増加…等)に合わせて、既存の制度に「付け足し」していくことで精一杯になってしまいがちです。

“良い”人事制度は、方針・戦略に基づき、会社・経営のつくりたい組織状態と人事ポリシー・諸制度が一貫している。ところが経営が方針・戦略を変更した際に人事ポリシーの変更を“忘れ“、既存制度がアンマッチ(異なるメッセージを発する)を起こすことがある。

 実態に合わせた調整は重要なことです。しかし、ここではあえて、「本来の(新しい)目的からすれば、人事制度はどうあるべきか」から考える、やや青臭い理想論を前提に、現実・現場のお話を伺っていきたいと思います。そのため、組織人事が主題の本企画ですが、まずは企業が今直面している課題や目指す方向から伺っていきます。どうぞよろしくお付き合いください。(小野寺 友子)

小野寺友子(BRICOLEUR 取締役、bouquet 代表取締役)
富士銀行、バルス、リンクアンドモチベーション、プロジェクトプロデュースを経て、現職。組織開発コンサルティング企業BRICOLEUR(ブリコルール)と、ダイバーシティ&インクルージョンをテーマとした女性活躍推進コンサルティング企業bouquet(ブーケ)の2社を経営する2児の母。


平田麻莉(BRICOLEUR 広報、フリーランスPRプランナー、ライター)
ビルコム新卒一期生として、国内外50社以上のPR業務および自社の事業推進に従事。ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、慶應義塾大学ビジネス・スクール修了。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程在籍中に出産し、退学。現在は、2児(1名は待機児童)を育てながら、リモートワーク・パラレルワーク・カンガルーワークの実験中。

インタビュー風景。写真左から、J.フロントリテイリング執行役員 業務統括部グループ人事部長 忠津剛光さん、大丸松坂屋百貨店本社業務本部人事部部長 重田和美さん、聞き手の小野寺友子、平田麻莉(カンガルーワーク実験中。今回快くご対応をいただきました)

小野寺:つい先日、J.フロントリテイリングは「GINZA SIX(ギンザシックス)」という、複合型の商業施設で松坂屋銀座店跡地の再開発を進めると発表されました(関連記事「JフロントがGINZA SIXで挑む脱・百貨店」)。一方で、三越千葉店など閉鎖される百貨店が次々と出ています。

J.フロントリテイリング執行役員 業務統括部グループ人事部長 忠津剛光さん(以下忠津):我々は今まさに、一気呵成に百貨店の新たなビジネスモデルを作ろうとしています。パルコや千趣会への出資も、新たな領域を開拓しようという考えからです。

 これまでの流れで言うと、2000年に営業改革を行い、それまで取引先ブランドに任せがちだった販売と仕入れの自社体制を整理しました。同時に、売り場の販売業務を棚卸しし、人員のスリム化も行って、劇的に売上と営業利益が改善しました。

 しかし、それはあくまで業務改善の話でした。百貨店業界の売上は、20年間ほぼ一貫して2%ずつ落ちています。無くなりはしませんが、少しずつ弱体化しているのです。

小野寺:なぜでしょうか?

目指すは顧客資産を活かす「ディベロッパー型百貨店」

忠津:だって皆さん、もう百貨店に行かないでしょう? 平田さんはどうですか。

平田:うーん、たまに大丸東京店にはお世話になっていますけど…(汗)。

忠津:高額ですよね?

平田:はい。実は、行くとしても食品売り場だけです(大汗)。

忠津:婦人服フロアは3~4層もありますが、人生を楽しもうという時に、ファッションにお金をかける人は減っています。今は旅行とか、趣味とか、家族とか、もっと言えば健康、介護、保険など、多様なお金の使い途があります。そういう品揃えは、これまでの百貨店にはほとんどなかった。いまのお客様にとって本当に付加価値を提供できる場になっていないのです。