サイバー攻防の先進国、イスラエル

 アラブ国家に囲まれた中東の小国、イスラエル。少ない人口で国土を防衛するために高校卒業後の2~3年に徴兵制度が組み込まれている。優秀な学生は諜報部隊などに配属され、サイバー戦争の最前線で攻防の技術開発に勤しむ。諜報部隊出身者が「世界の研究者が頭を悩ませている技術的難題を18歳の若者に突きつけてくる」と話すようなエリート教育が施される。

 こうした若者の多くは、徴兵期間で養った技術を基にして、退役後にスタートアップを起業する。ファイアウオールを生み出したチェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズのギル・シュエッドCEOはその典型だ。

 国も多彩な補助金メニューで起業を後押しする。サイバー分野での世界的成功に憧れる子どもたちが幼少期から技術習得に勤しむ好循環も生まれている。こうした経済システムを背景に、イスラエルはサイバー防衛において先進国としての地歩を固めている。

 「日経ビジネス」10月31日号の特集「サイバー無策 企業を滅ぼす」の中で紹介した、独フォルクスワーゲン(VW)によるサイバー防衛専門の新会社「サイモーティブ・テクノロジーズ」も、実はイスラエル公安庁の元長官が会長を務めている。

自動車の防衛でも日本に商機

 こうした自動車のサイバー防衛を専門とする企業がイスラエルでは2013年に既に誕生していた。

 前述のチェック・ポイントやカナダの部品大手マグナ・インターナショナルと技術提携を結び、この分野で20の特許を持つアルグス・サイバー・セキュリティー。創業者でCEO(最高経営責任者)のオファー・ベンヌーン氏は「多層の防壁、寿命が尽きるまで自動車を守り続けるシステム、そして諜報部隊出身者らが攻撃者の視点を有していること。アルグスには自動車の安全のために必要なものが揃っている」と胸を張る。

 アルグスも日本企業の本格進出を狙うイスラエル企業の1つだ。2014年に日本事務所を設置。5人が営業や技術サポートに当たっている。

アルグス・サイバー・セキュリティーのオファー・ベンヌーンCEO(右)と営業責任者のヨニ・ハイルブロン氏。

 アルグスの営業責任者、ヨニ・ハイルブロン氏は「系列の結びつきが強く品質要求も厳しい日本でのセールスは難しいと覚悟はしていた。しかし、この保守的な業界でも外の技術を受け入れる素地ができつつある。日本での顧客も獲得できた」と手応えを語る。

 日本での営業を担当する岡本伸一氏は「操作系とインターネットが結びついたコネクテッドカー(つながるクルマ)は2018年ごろには本格的に市場に出てくるのに、次々と自動車の脆弱性が発見されているのが今の状況。自動車メーカーも対策を迫られている」と話す。