「トヨタ自動車を知る人物に片っ端からインタビューしよう。目標は100人だ!」
そんな掛け声の下、担当記者4人が走り出したのは校了日(原稿を印刷所に届ける日)のわずか3週間前だった。「客観的視点」を重視するため、主な対象とするのはトヨタ社外の人たち。しかも、当然のことながら、この「100人取材」だけに全ての時間は費やせない。うち1週間は執筆に当てなくてはならないし、休日やハッピーマンデーの祭日もあったから、実質的な取材日数は9日間。もちろん、メンバー全員がこの特集以外の仕事も抱えていた。
「これ以上は無理だ!」「もう当たれるところは当たり尽くした」「さすがに100人は多すぎたか……」
途中、幾度となくチームにあきらめムードが漂うも、記者自身はそれほど不安にはならなかった。製造業に知人が多く当てがあったこともあるが、そうでなくても日本にはトヨタと関わった経験のある人がとてつもなく多いと思っていたからだ。
目を血走らせるデスク、お菓子を食べ尽くす記者
記者の役回りは、SUBARU(スバル)やマツダなどトヨタと密接に仕事をしている企業を1社1社訪ね、取材協力を仰ぐこと。その間、目標の100人を達成すべく凄まじい頑張りを見せてくれたのがT記者だった。
「これ以上は探せる気がしません」。そんな弱音を誰よりも早く口にしたのがT記者。ところが、途中から水を得た魚のように次々と細かな取材を勝ち取り、結果として誰よりも多くの人から「トヨタ像」を聞き出していた。仲間のこういうひたむきな姿を見るたび、何ともすがすがしい気持ちになる。
クラウド上に共有ファイルを作り、日々、積み上がっていく取材ノートを全員でシェアした。そして、それらの断片を原稿という完成図にまとめていく中で、デスク(記者が書いた記事を編集する副編集長)を含めて全員が実感していたのは、「苦労はしたけどやってよかった」というものだった。
ちなみに、T記者だけでなく全員が総力を結集しなければ、この特集は成し得なかった。校了日の前日、デスクは原稿を見すぎて目を血走らせ、メンバーはまともに食事すらできずに江崎グリコの置き菓子棚「オフィスグリコ」のお菓子を食べ尽くした。それでも最後まで冗談を言い合って笑っていた。もしかするとこの時、全員が「ナチュラルハイ状態」だったのかもしれない。

100人の声から浮かび上がってきたトヨタの実像。それは、「100年に1度」と言われるほどの未曽有の危機を乗り越えようと、悩み、苦しみながらも変わろうとする「巨人」の姿だった。
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