「お客様の靴を履いてみなさい」

福田:マーケターが考えた通りにお客様は動いてくれるわけではありません。顧客視点への発想の切り替えが大切になりますね。具体的にはどんな機会を作って取り組みを進めていますか。

岩嶋:私が講師になり、月に1回マーケティングと営業部門を対象にデジタルマーケティングに関する社内レクチャーを開催しています。勉強会の一環として、営業が知識を付けることを目的に、今年8月にはある本部で、顧客行動を時系列に示す「カスタマージャーニーマップ」を作るワークショップを開催しました。

 「カスタマージャーニーマップがなぜ必要か」から始まり、作る時の視点として「Put yourself in customers shoes(お客様の靴を履いてみなさい)」という言葉を紹介し、自分のお客様が履いている靴、サイズ、靴底の減りなどを想像し、営業それぞれが常にお客様の立場に立つことを意識しながらワークショップに取り組んでもらいました。

福田:営業とマーケティングの間にギャップがあり、相互理解が得られないことに悩む企業は多いです。営業向けにレクチャーをやる理由はなぜですか。

岩嶋:デジタルではマーケティングと営業の領域が重なってきています。連携がうまくいかないと、マーケティングが渡す見込み客情報を営業がフォローしてくれないという問題が生じます。マーケティングのメンバーはお客様と直接お話する機会がないため、思い込みでカスタマージャーニーマップを作ると現実から乖離すると指摘しました。マーケティングと営業が一体的にデジタルマーケティングに取り組むことが必要なのです。

福田:カスタマージャーニーマップ作成のワークショップをどう進めたか、もう少し詳しく教えてください。

岩嶋:まず、デジタルマーケティングへの精神的な抵抗感と無関心を払拭した後、デジタルでアデコがどんなコミュニケーションをしていくか、ギャップ分析の結果から考えました。

 アデコではまず効果の大きいBtoB領域に注力し、BtoCへと広げて行く予定です。コミュニケーションのギャップ分析では4R(適切な人に、適切なタイミングで、適切なコンテンツを、適切なチャネルから)を意識しました。分析の結果、これまで懸念はしていたものの特にアクションを取っていなかったコミュニケーションギャップが、考えていた以上に大きいことが分かりました。

福田:そのコミュニケーションギャップとはどんなものですか。

岩嶋:アデコでは働く人は財産という考えから、「人材」ではなく、財産の「財」の字を使い「人財」と呼んでいます。ウェブのコンテンツも「人財」で作っていますが、実際には求人情報を「人財」で検索する人はほとんどいません。キーワードが「人財」の場合、アデコは検索上位で表示されますが、これではそれ以外の人とのコミュニケーション機会が少なくなります。「人材」でも検索上位に来るテクニックは使えますが、企業視点の一般的なキーワードではなく、お客様の話す言葉で会話をしないといけないことを痛感しました。

福田:デジタルマーケティングで個人を把握できるようになり、One-to-Oneマーケティングへの基礎は整備されつつあります。この先のアデコの全体展望で、注目しているテクノロジーはありますか。

岩嶋:AI(人工知能)は我々の業界で重要なテクノロジーです。企業からいただいた求人情報を、求職者に最適な形かつ最適なタイミングで提供するために、AIを導入していきたいと考えています。

 求職者がこれまで担当者にかけてきた電話の相談内容には、契約の継続可否やキャリアアップの希望などの兆候が含まれています。これまでは担当者が経験に基づき相談に対応していましたが、AIを活用すれば、契約者からの問い合わせ内容に含まれる本音を予測し、最適なアドバイスや新しい求人情報の提供ができるのではないかと考えています。