技術の革新とともに顧客の購買行動は大きく変わり、経営戦略と一体化したマーケティング戦略の重要性が高まっている。顧客と企業との関係も変化しているが、従来と同様のマーケティング戦略から脱却できず、変化に対応できていない企業は少なくない。どうすれば顧客との「エンゲージメント(つながり)」を深め、顧客中心の経営を進めることができるのか――。「エンゲージメントマーケティング」を提唱するマルケト社長の福田康隆氏が、デジタル変革に取り組むコニカミノルタの山名昌衛代表執行役社長兼CEO(最高経営責任者)に話を聞いた。
「エンゲージメントマーケティング」による新成長戦略
福田:エンゲージメントとは、顧客との間の長期的な関係を意味します。それは、新規獲得はもとより、さらにその先にある顧客の定着(ファン化)を重視する企業と顧客との間で育まれるものです。エンゲージメントを重視するマーケティングは、顧客の変化に合わせ、「つながり」を重視し、中長期的に個人を対象とした施策を展開するものであり、企業が決め、マスを中心にした単発的なキャンペーン型のマーケティングとは異なります。
マーケティングに限らず、企業経営でも顧客中心で価値を提供することは競争優位の源泉になり得ます。エンゲージメントエコノミーの時代に、「ディスラプター」と呼ばれる米Uberや米Netflixが成功したのは、タクシーがなかなか捕まらないことや高額な延滞料金という不満を解消する顧客中心の姿勢を貫いたからです。
これらの新しいサービスは、テクノロジーの進化があってこそ実現できました。テクノロジーが消費者の生活を大きく変え、企業はその変化に追随します。ですから、デジタル時代の企業経営は戦略ありきではなく、テクノロジーで変化した顧客を理解し、それに即して戦略立案や人材育成を進める必要があります。デジタルマーケティングとは、単なるデジタルチャネルの活用ではなく、テクノロジーで世界が変化した時代における顧客中心のマーケティングなのです。今回はまさにこの視点でデジタル変革を推進しているコニカミノルタの山名社長に話をうかがいました。
技術を追いかけるより、顧客価値の創造を重視
福田:デジタル変革に取り組むに当たり、自社の取り組みが遅れているのではないかという悩みや不安を持つ企業は多いと思います。そんな中、コニカミノルタはいち早くデジタル変革へと舵を切りました。山名社長がデジタル変革を最初に意識したタイミングはいつでしたか。
山名:デジタル技術については4~5年前から重視していましたが、2015年に米「フォーチュン」誌がグローバル企業のトップを招いて米サンフランシスコで開いた経営者会議に参加して、より意識が高まりました。単に新しい技術を追いかけるのではなく、技術を通していかに新しい顧客価値を早く作るかに注力しようと覚悟を決めたのです。デジタルが生み出す顧客価値や社会課題解決の構想を、早く事業化までつなげなくてはという危機感を募らせました。

山名昌衛(やまな・しょうえい)氏
1954年兵庫県生まれ、77年4月ミノルタカメラ入社。新興国の市場開拓や英国駐在などでの海外販売や、全社経営企画に携わった後、買収した米プリンター会社のCEOを務める。コニカとミノルタの経営統合推進の一翼を担い、経営統合以降は分社体制下で、持ち株会社常務執行役として経営戦略担当、取締役兼常務執行役として情報機器事業会社社長を歴任後、2013年4月に取締役兼専務執行役(情報機器管掌)に就任。14年4月代表執行役社長。(写真:清水盟貴)
デジタル技術がもたらす価値を私は3つのカテゴリーで捉えています。まず、「コネクティビティー」。メールなどのテキストや人の動き、動画・画像といった企業が持つ様々なデータをつなぎ合わせて解析できるようになると、従来の2倍、3倍ものROI(投下資本利益率)を目標に掲げられるほどの新しい価値を生み出すことができます。
二つ目は「個のマーケティング」です。個々のお客様にそれぞれ必要な情報を送り届け、価値を提供するというマスカスタマイゼーションを実現できます。同時に、例えば医療の現場で一人ひとりの患者に最適な医療を施すことができれば、医療費の削減というコストダウンにもつながります。
最後は「AI(人工知能)」です。ディープラーニング(深層学習)の技術を使いこなせるようになると、将来を予測し、人間がより創造力を発揮するための支援が可能になります。
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