魂で、堤清二と語り合った

いつか、堤清二について、原田さんが小説で書くことはあるでしょうか。

原田:恐れ多いかもしれませんが、何か形を変えて堤さんのような方が登場する物語をいつか書いてみたいですね。

 小池一子さんと久しぶりにお目にかかったのが、今から4年前のことです。その時、堤さんの思いをかたちにして、彼を送り出してあげる展覧会を軽井沢のセゾン現代美術館でやっているから、どうかそれを見にいってほしい、と言われたんです。

 それで私、ハッとしました。しばらくセゾン現代美術館から足が遠のいていたんですね。小池さんに「久しぶりに行ってきます」と言って、そのためだけに、1人で軽井沢に行きました。

 すばらしいコレクションと彼が手がけた仕事の数々を紹介する展示でした。やはりすごい人だったんだと、改めて感動しながら展示会場を進んでいったら、最後に堤さんの書斎が再現されていたんです。

 その時、私は、堤さんから、「やっと来たね、待っていたよ」と言われた気がしたんです。「堤さん、すみません、時間がかかってしまいました。でも、やっと私、ここまで来ました」と心の中で応えて、「こんなにもすばらしいコレクションとお仕事を遺していただいて、本当にありがとうございます」と伝えました。

 「私はこれを誰かに伝えなくてはいけませんね」という対話をしました。私はそういうところに行くと、パッとスイッチが入っちゃうので、勝手に対話が始まっちゃったんです(笑)。

 でも、とてもいい時間でした。「今、あなたが見るべきだ」と展覧会を教えてくださった小池さんにも、心から感謝をしました。そしてなぜ小池さんはあの時そう言ってくださったのか、分かるような気もしました。

 多分、そこに行けば堤清二があなたを待っていると、小池さんはおっしゃりたかったんじゃないでしょうか。

 何十年もかかったけれど、ようやくその時に、堤さんの幻にお目にかかることができて、心してこれから書いていきます、と誓いました。

 堤さんはもちろん素晴らしい作家であり、詩人でもいらっしゃった。こんな人が日本にいたんだということを、やっぱり私たちは忘れてはいけないし、たとえ忘れても思い出さなくちゃいけない。そのために、何か役に立てればいいなと思いました。

 林真理子さんにも心から感謝しています。私が堤清二の孫弟子であると言っていただいて。林さんもセゾンの薫陶を受けられた超一流のクリエーターでいらっしゃるから、とても尊敬しています。

 尊敬できる人がいるって、人生を豊かにする素敵なことですよね。私は、リスペクトやプライドが、人間として大事なことだと思っています。そして、アートの周辺にはそういうことを心の中で大事にされている人が多い。ですから、今の若い方々にも知っていただけるといいなと思います。日本には「堤清二」がいたんですよ、と。

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