意識されなくなった企業ブランド

広告の形が大きく変わっているわけですね。

大倉:「広告で大きなことをやろうぜ」といった雰囲気がほとんどなくなっているように感じます。

 例えば駅貼りのポスターで、紙や刷りに徹底的にこだわって1枚の“強さ”でみんなにクリエーティブ的なショックを与える、というものはなくなってきました。昔はそれこそ、セゾンがよくやっていましたけれど。

 テレビ広告も、ものすごく質が落ちているように感じています。

 1970年代後半から1980年代にかけての広告には、単純にモノを売るためだけではない側面がありました。百貨店文化が花開いていた時期でしたから、みんな、どこかで企業ブランドをきちんと作ろうという意識があったのだと思います。セゾンも伊勢丹も丸井も、そんな姿勢をもっていました。

 自分たちの企業が何をやりたいのかをきちんと伝えること。商品の広告であっても、企業ブランドがきちんと出るようなものにしなければいけない。そういった心意気が、クライアントにもありましたし、広告会社にもありました。

 当時は「コピーの時代だ」とか、あるいは「これからはデザインだ」とか、そういう流れが常に入れ替わっていました。セゾンは特にそういうものを強く意識していたはずです。

 けれど、そういった形でクリエーティビティを打ち出す企業はもしかすると今は、あまりなくなってしまったのかもしれません。

たしかに、印象的な広告を打ち出す企業があまり思い浮かびません。

大倉:ユニクロがテレビCMを始めた時には、皆さんすごく驚いたと思うんです。

 例えばフリースブームの時、無音でフリースが工場の中をぐるっと回っているCMを放映していました。ほとんど音のない広告です。覚えている人も多いのではないでしょうか。

 あの直後から僕らは7年間、ユニクロの広告を担当していました。ユニクロの商品広告を手掛けながら、僕らは「ユニクロというブランド名を隠しても、ユニクロの広告だと分かる広告を作ろう」とよく言っていたものです。

 

 そういった心意気のようなものは、もしかすると薄れてしまったのかもしれません。少し寂しい気もしますね。

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