民主主義の前提が崩れかけている

堤さんは社員や消費者に対して精神的な豊かさを伝えようともしていました。

奥田:そういう夢の持ち方も堤さんだからできたのだと思います。ほかの百貨店の経営者は持てていませんでしたから。

 堤さんは精神的な豊かさを追い求めたけれど、それは資本主義と民主主義、自由主義がしっかり根付く前提の上で考えていたはずです。けれど今はもう、その前提が崩れかけてきている。堤さんが生きておられたら、どう感じられたでしょうね。

 ただ、それでも堤さんは偉大な経営者でした。あの時代には本当に傑出していた。当時は堤さんだけでなく、イトーヨーカ堂の創業者の伊藤雅俊さんやセブンイレブンの鈴木敏文さん、ダイエーの中内功さんなど、みんなが将来に対するロマンを持っていました。

 ただ、ロマンを抱きながら経営をやっていくのは難しいですよね。ブレーキをかけると新しいものはできませんからね。

 振り返れば、僕は本当にいい時代に経営をやらせてもらったと思います。その点、今の経営者はもっと大変でしょう。

 自動車業界にしたって、テスラがあっという間に登場してきました。今後どうなるかは分かりませんが、もうGMやフォードが業界をけん引する時代ではありません。今さらアメリカが鉄鋼業や自動車産業を盛り立てたって限界はあります。同じように、日本も変わらなくてはいけないのでしょうね。

 日本の大きな問題の一つは、産業構造が古いことにあります。人材も流動化しない。ニワトリが先か卵が先かは分からないけれど、終身雇用がなくならない限り、日本は生き残れないのかもしれませんね。今後、定年が70歳まで延びて終身雇用を守ったら、若い人が成長できませんから。

 日本が、国としてどういう産業を育てていくのか。そういうことを考える時代ではなくなったのかもしれませんね。自分の企業をもり立てて、生き残っていくのが精いっぱい。今の新しい人が引っ張ってくれるといいなと思っています。