デパートを一つの劇場にした結果……

上野:延長線ではあるのだけれど、それをうんとディフュージョン(拡散・普及)させたのです。もともと百貨店に手が届くのは、戦前は中産階級の上位の一部の人たちでした。しかし、西武は顧客のすそ野を、大きく広げたのです。老舗百貨店に比べて、私鉄沿線の住民など、より幅広い客層に対して、マーケティングをしました。

 西武百貨店に代表されるターミナルデパートは、老舗百貨店に比べれば格が落ちます。とりわけターミナル駅の中でも、池袋は格落ちですから。

そういう場所にある西武百貨店の最上階に、現代美術を中心に展開する「西武美術館」をつくるという堤清二さんの発想には驚かされます。

上野:それも西武の特徴ですね。西武百貨店は、いつも現代美術展など尖った文化催事をやっていました。滋賀県にある「大津西武」でも、前衛的な演劇などをやっていました。

 そうした試みが西武にどんな効果をもたらしているのか、私は実際に調査しました。

 関西だと、そうした演劇は、そこでしかやってないということで、神戸、大阪など広域から意識の高い客が来る。それはファッションで分かります。そういう人たちが店内に入ってから尾行すると、その人たちは商品を買わずに直行直帰するんです。なんだ、これでは販促にならないな、と思いました(笑)。

 大津西武には広大な駐車場があって、お客さんはクルマで来る。私たちは何をチェックしたかというと、車から降りる人の履物です。サンダルで来ていたんですよ、靴ではなくて。そういう人にとっては、百貨店は「ご近所」であって、ハレの場でないのです。車はケの日常をまんま運ぶ乗り物です。ご近所の彼らは、遠方からとんがった催事に来る人と違うタイプですから、互いに混じり合いません。

 西武百貨店は文化事業で、とてもいいことをやっていたし、面白かったけれど、販売促進になってないということが発見でした(笑)。

 つかしん(兵庫県)もそうだし、八尾西武(八尾市)も似たような面がありました。結局、デパートを一つの劇場にしたいというのは堤さんの意向だったと思うけれど、とくに地方の店舗では、なかなかそうはなりませんでしたね。

(後編に続く)