堤さんとドンキについて話したかった

小売業の標準的な売り場づくりは面白くないと消費者が感じているから、ドン・キホーテが好調なんでしょうね。

三浦:僕もドン・キホーテは好きです。最近も久しぶりに入りましたが、普通の小売業よりは面白い。どうしても滞在時間も長くなりますよね。

 「何があるんだろう」とか、「本当にこのシャツは300円でいいのか」とか考えると、どうしても長くなる(笑)。海外でうまくいっている日本の小売業は、無印良品とドン・キホーテです。

 僕はある意味、ドン・キホーテはとても西武的だと思っています。“品のない西武”とでも言いますか(笑)。堤さんとドン・キホーテの売り場づくりのことを話したかったですね。きっと堤さんも、嫌いではなかったはずです。下流感はあるけど、面白いですから。

堤さんを知らない若い世代に、堤さんの思想とのつながりを感じることはありますか。

三浦:先ほどの赤ちゃんのいるシェアハウス(詳細はインタビュー前編の「シェア時代の到来を言い当てた堤清二」)もそうですが、今は小さな経済圏づくりがいろんなところで見られます。

 例えば建築家の宮崎晃吉さんの谷中での活動がそうです。

 最初に手がけたHAGISOは、古いアパートを改造したものです。カフェがあって、ギャラリーがあって、事務所がある。近くにやはり古いアパートを改造したホテルをつくり、HAGISOでチェックインしてそこに泊まる。

 ただそのホテルには風呂がないので、昔からある銭湯に行く。その方が外国人は喜びます。食事は谷根千の各所にある飲食店でとる。尺八教室なども紹介する。また別のビルにつくったカルチャースクールでは地元の人が講師となって、いろいろなことを教える。

 こんなふうに、利益を自分たちだけで独占するのでなく、街を一つの経済圏として回していくという発想。これもまさに、堤さんが予言した動きです。

 磯崎新事務所にいた宮崎さんがこの場所をつくり始めたのが4年くらい前で、実は彼は、僕の読者でもありました。僕の読者という意味では、やはりどこかで堤さんを理解できるタイプでもあるということです。きっと、彼らが30年前に大学を出ていれば、西武百貨店やセゾングループに入ったでしょうね。

 セゾングループが解体した影響の最大は、フリーターを増やしたことだと思っています。フリーターにしかなれないだろうな、というような若者を、セゾングループはたくさん雇っていましたから。

 セゾングループから有名な作家になった人もたくさん出ました。そういう人が入社試験を受けに来たし、採用してくれたのが面白いですよね。普通の企業の人事部長だったら、絶対に雇わないような若者ばかりでしたから。

 30年くらい前、セゾンはグループ共通採用を実施していました。僕も学生の面接をしたことがあります。すると「僕は詩が好きです」とか、そんな学生ばっかり。さすがの僕も「もういいかげんにしろよ」と思いましたよ(笑)。

 ああいうタイプの人たちは、セゾングループ解体後は就職するところがなくなってしまったのではないでしょうか。

 記憶にないですが、もしかしたら、履歴書には大学名がなかったかもしれません。無印良品的な発想ならば、そんなものは必要ありませんよね。

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