無印良品、ファミリーマート、パルコ、西武百貨店、西友、ロフト、そして外食チェーンの吉野家--。堤清二氏が一代でつくり上げた「セゾングループ」という企業集団を構成していたこれらの企業は、今なお色あせることはない。
日本人の生活意識や買い物スタイルが大きな転換期を迎える今、改めて堤氏とセゾングループがかつて目指していた地平や、彼らが放っていた独特のエネルギーを知ることは、未来の日本と生活のあり方を考える上で、大きなヒントとなるはずだ。そんな思いを込めて2018年9月に発売されたのが『セゾン 堤清二が見た未来』だ。
本連載では、堤氏と彼の生み出したセゾングループが、日本の小売業、サービス業、情報産業、さらには幅広い文化活動に与えた影響について、当時を知る歴史の「証人」たちに語ってもらう。
連載第7回目に登場するのは、消費社会研究家として活躍する三浦展氏。三浦氏の原点はパルコに入社して配属されたマーケティング誌「アクロス」編集室。三浦氏は2000年代、堤氏との対談『無印ニッポン』(中央公論新社)を刊行するなど、堤氏との接点を持ち続けた。三浦氏は、「堤さんは30年先の消費社会を予見していた」と話す。堤氏の先見性や独自性はどこから生まれたのか。堤的思考の秘密について聞いた。(今回はその前編)

三浦さんは堤さんの晩年にインタビューをするなど、接点がたくさんあったようですね。
三浦展氏(以下、三浦):パルコ時代は一兵卒と総帥の関係ですから、もちろん何の接点もありませんでした。
2008年くらいでしたか、セゾン文化財団の評議員を委嘱され、その後、中公新書での対談の企画があり、初めて正式にお会いしました。その後は都合6回ほどしかお会いしていませんが、濃密な時間でしたので、何十回もお会いしたような気持ちです。
堤清二さんは2013年に亡くなりましたが、もしかしたら僕が死期を早めた面があるのではと思っています。
なぜそう思うかというと、(2012年に出版された)『第四の消費』(朝日新聞出版)という僕が書いた本を巡って、堤さんとこんなやりとりがあったからです。
その本の中には堤さんへのインタビューも収録したのですが、インタビューさせてもらった後、堤さんにゲラを送ったわけです。
インタビュー原稿と併せて本文も送ったら、堤さんから電話がかかってきて、「この対談はいらない」と言うんです。「載せなくていい」と。秘書からではなくて、直接、堤さんが電話をしてきました。
『第四の消費』というのは、消費社会を30年単位で見ていく視点で書いたものです。その『第四の消費』を書いていく中で、堤さんが30年先を読んで仕事をしていたということが痛感された。だからこそ、改めてインタビューをして巻末に載せたいと思ったわけです。
一方、堤さんも最後に消費社会論を書こうとしていたようです。それまでも流通経済論や消費資本主義論などを書いていたけれど、堤さんは最後に消費社会論を書きたいとおっしゃっていた。
彼からすると、僕にインタビューされたのはいいけど、本文を見たら「これは自分が書こうと思っていたことだな」という気持ちがあったと思うんです。
そうじゃないと「載せなくていい」とは言わないでしょう。だから「何だ、俺がやることがなくなったな」と、生きがいを喪失させた面があるかもしれない。
「こんな消費社会論じゃだめだ。俺が本物を書いてやる」と思ったら、闘志を燃やして長生きしたはずです。だから『第四の消費』が堤さんの死期を早めてしまったんじゃないかと、少しうぬぼれかもしれませんが、思っています。
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