「堤さんも僕も大衆心理を理解していた」
大衆心理という点から、今の日本人の消費動向をどう読み解きますか。

鈴木:日本人はやっぱり、心理優先の国民性です。今だって、企業の内部留保や個人の預金の多さを見れば分かるけれど、みんな将来に不安を持ち続けている。
昔は、江戸っ子は宵越しの金を持たないなんて言われて、確かにそういう面も、一部にはありました。けれど敗戦を経験すると、貯蓄がいかに大切かという考え方が、とことん日本人の中に染み込んでいったわけです。
僕は若い頃、入社した(書籍取次大手の)トーハンで出版科学研究所に配属されて、心理学と統計学の勉強をずっとさせられていたんです。
その後、同社で『新刊ニュース』という雑誌の編集をさせられたんですね。当時の『新刊ニュース』は、読み物もあったけれど、「本を読む人は、通俗的なものは求めていない」と考えて、難しい内容のものばかり掲載していたんです。
それを僕は「息抜きだって必要だ」と考えて、がらっと『新刊ニュース』の内容を変えたわけです。星新一のショートショートを入れたりして。すると『新刊ニュース』の部数が飛躍的に伸びた。つまり重要なのは顧客の「心理」を読むことなのです。
小売業にとどまらず、幅広い分野で活躍した堤さんも、人々の「心理」を知ろうとした経営者だったのかもしれません。僕も心理を知ることこそ、これからの経営者に必要なことだと感じています。
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