吉野家救済にはみんな反対だった

セゾングループが手掛けて成功させた企業再建の代表例としては、クレディセゾンのほかに、外食チェーンの吉野家がありますね。同社は1980年に会社更生法を申請し、セゾングループがスポンサー企業に、堤清二氏が管財人になって再建しました。

林野:私が西武クレジットに来る前、西武百貨店の企画担当として役員会事務局の仕事をしていた時のことだと思います。吉野家の支援に乗り出すかどうかを決める役員会の光景は異例でした。

 役員たちはみんな下を向いていました。それは内心では反対だったということです。

 百貨店業界で劣っていた西武のイメージがようやく上がってきたところなのに、堤さんは今度は牛丼の吉野家を支援するという。

 堤さんがすごいのは、百貨店のイメージを上げなくちゃいけない、三越、高島屋、伊勢丹に追い付かなくちゃならないというのに、牛丼チェーンも再建しようと考えるところでしょうね。

 緑屋についても同じことが言えます。緑屋という月賦百貨店をなぜ今さら再建する必要があるんだということです。そんなものを買う必要はないと思いますよね。池袋の競合百貨店で経営難に陥った丸物だって、買う必要はないと否定されても、堤さんはそれを業態転換させて、パルコにしたわけです。

 そして吉野家も再建させて、緑屋もクレディセゾンに生まれ変わらせた。

堤氏の先見性には際立ったものがあった、と。

林野:そうです。企業は、生まれ変わらせる人材がいれば生まれ変わるわけです。ただ、堤さんの考えていることを心底理解して、それに信奉している人でないと、やっぱり途中で諦めてしまうはずです。「なぜ俺がこんなことをやらなきゃいけないんだ」となりますから。

「俺はシュンペーターは読んでいない」

林野社長は、堤氏がやってきたことは「創造的破壊」そのものだと言っています。

林野:経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが経済進化の原理として唱えた「創造的破壊」ですね。

 堤さんは丸物という百貨店を「壊して」パルコにしたり、緑屋をカード会社に転換したりしました。こういうイノベーションは、まさに創造的破壊そのものだと思います。

 一度、堤さんに直接聞いたことがあるんです。「堤さんはシュンペーターを勉強なさったんじゃないんですか」と。「シュンペーターの本を読んで、今みたいな経営をやっているんじゃないですか」と聞いたら、「俺はシュンペーターは読んでいないんだ」と言っていました。

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