「全従業員を正社員に」に宿る堤哲学

堤氏のこうした発想は、父親である堤康次郎氏が築いた西武鉄道グループが持っていた封建的な体質に対する反発心を感じます。

林野:そういう面もあるでしょう。そもそも堤清二さんのこうした経営姿勢は、ほかの企業とは異なる際立った特徴です。

 私は西武百貨店から、クレディセゾンの前身である西武クレジットに移りました。それ以来、この会社で堤さんの理想を実現してやろうと思ってやってきました。

 継承した一つの考え方は、「より大きな目的のためには、米国流の株主最優先の経営からは距離を置く」ということです。短期的な利益最大化を目標とする経営とは違うものを目指すということですね。

クレディセゾンは2017年9月、パートタイムや嘱託などの区分をなくし、約2200人について賃金体系や福利厚生の待遇を改善しましたが、一方では人件費も上昇しました。こうした判断も、堤さんの思想が影響していますか。

林野:そうですね。会社としてどんな思想を持っているのか、社会にメッセージを発信する取り組みの一環でもあります。私は「非正規社員」や「従業員」という呼称そのものが好きではないんです。

 理想は、働いている人に自由があって、自分の考えが仕事に反映される会社にすること。社員が面白がって会社に来る、少なくともいやいや来るのではないような職場にしたいと思っています。

 思い切って人事制度を変えたことが世の中に伝わり、当社で働きたいという人が、特に女性中心に増えました。

 日本全体で言えば、1990年代からの「失われた20年」の中で最もつらい思いをしてきたのは、若い世代ではないでしょうか。この間に育った人たち、あるいは社会に出た若者たちは、自分の希望の職業に就けなかった人が多い。フリーターのようなかたちで働き続けている人も少なくありません。

 若い人たちが希望や夢を描けない時代が長かったんです。

 経営者はその人たちを安い給料で、非正規社員として使って人件費を節約することによって、減収増益を果たしたとも言えます。

過去20~30年で、日本の経営者の発想が短期的な利益を上げることばかりに偏重するようになった、と。

林野:そうです。それが今も続いています。日本の経営者は事業を通じて、社会から共感を得ようという意識があまりないように感じています。

 四半期決算は誰の為にやっているのか。企業業績が伸びたことで浮かばれたのは経営者の待遇と株主配当です。しかし若い働き手に対しては、物価が上がらないことをいいことにして低賃金で据え置いてきました。

 若いライフステージの段階で、お金を使うニーズがたくさんある世代の可処分所得を増やす施策を打てなければ、消費も景気も良くはなりません。当社が正社員化を決断した背景には、そのような思いもありました。(後編に続く)