「50歳」の節目は、他の年齢とは違う何とも言えない「漠然とした不安」がまとわりつくことが多い。仕事の面でも、健康の面でも、じんわりと何らかの問題が生じているからだ。「自分は今のままでいいのか」「これからどう生きていけばいいのか」。そんなことを考えつつ、「人生の再構築」を検討するのが50歳だと言えよう。では、50歳前後で抱える不安や葛藤とはどのようなものなのか。どんな選択を迫られるのか。前回からの続きで、『50歳の衝撃 はたらく僕らの生き方が問われるとき』の著書である山本直人さんに詳しく聞いた。
山本 直人(やまもと・なおと)
コンサルタント・青山学院大学経営学部マーケティング学科講師。慶応義塾大学卒業後、博報堂でクリエイティブ、研究開発、ブランドコンサルティング、人材開発を経て2004年に独立。キャリア開発とマーケティングの両面から企業を対象にした活動を行う。近著に
『50歳の衝撃 はたらく僕らの生き方が問われるとき』(日経BP社)。(写真:菊池くらげ)
前回『人生における「不安」は、50代で最も高まる』からの続き。
自分の「ピーク時」と「今」を比べてしまう
50歳からの「再起動」がうまくできない人もいますよね。「こじらせ50代」と言うか、会社の中でどんどん浮いていくような感じの人ですね。覇気がなかったり、負のオーラを出していたり……。
山本:そういう人も確かにいますね。こじらせてしまう理由はいくつかあります。
よくこじらせてしまうのは、50代になっても、“ピーク時における自分”をベースに考えがちな人。ピークというのは、「あの頃が一番良かった」という仕事で最も手ごたえを感じていた時期のことで、多くの場合、それは30代前半に訪れます。これは、調査でも明らかです(以下のグラフ)。
50歳の調査対象者に職業生活の浮き沈みを描いてもらった曲線の全体傾向。ここから「30代前半がピーク」ということが分かる。(出所:労働政策研究・研修機構 「成人キャリア発達に関する調査研究 50代就業者が振り返るキャリア形成」)
山本:その時期と“今”を比べてしまうと、どうしても“今”が見劣りすることが多い。そうなると、会社や仕事、今の自分の置かれている環境などに不平・不満が出やすくなる。
50代ともなると要職や最前線から外れる人も少なくないでしょう。出世という観点では、同期の中ではかなりの差が生じ、「年下の上司」も増えてくる。そんな中で、現状、自分が置かれている立場を客観的に捉えなければいけません。
昔話をよくする人は、不平・不満もセットになっていることが多いですね。「だから、ダメなんだ」と。「過去」を振り返ってばかりの人は、こじらせやすいんですね。
山本:こじらせている人は、「今の自分」が全く見えてないことがほとんどで、「過去」に生きていたり、「未来」を悲観しすぎたりして、不平・不満は言うのに、それに対する行動を取りません。
年齢に関わらず、素晴らしい仕事をするには、「今の自分に何ができるか」を把握し、「何をしたいのか」を整理して、理想と現実のギャップを埋めることが大切です。これは、自分をうまく「再起動」させるときにも重要なので、再起動したい場合は、自分の「棚卸し」から始めるといいと思います。
肩書や地位を外して考える
棚卸しをするときのコツはありますか?
山本:「棚卸し」をするときに勘違いしやすいのは、「今の肩書や地位でできていること」と「自分の能力でできていること」を一緒にしてしまうこと。前者は部署を異動したり、肩書が変わったりすると、できなくなる。それを「自分の能力」と勘違いすると、再起動に失敗します。
また、「能力」には、仕事の処理能力だけでなく、「人柄」も含まれます。例えば、「人当たりがいい」も能力に含まれます。自分の「個性」までよく考えてみることですね。
転職活動をしたことがある人以外は、自分の「棚卸し」をしてこなかった人が意外と多いと思うんですよね。驚くべきことですが、「あなたはどんなことができますか?」と聞いたとき、「課長ができます」「部長をやっていました」としか答えられない人もいるぐらいなので。こうした人は、自分をしっかり見つめ直す機会がないまま、歳を重ねてしまったのでしょう。
就職活動のときのように、50代になっても「自分に何ができるのか」「何が得意で、何をしたいのか」を明確に答えられるようにしておけば、突然の異動で未経験の分野で働くことになっても、こじらせることなく対応できると思います。
棚卸しをするときは、
- 今の自分に何ができるのか?
※「○○長をしてました」ではなく、これまでの実績を踏まえて考える
- 今の自分が得意なことは? 今後、得意にしていきたいことは?
※学んでみたいことも視野に入れる
- 本当に挑戦したかったことは何か?
※「もともと何をしたかったのか」「何を大事にしていたのか」を踏まえて考える
- 今の自分に求められていることは?
※今の肩書や地位を踏まえ、「周囲の期待」を考える
- 住んでみたいエリアはあるか?
※特に大都市圏に暮らしている人はほかのエリアの生活まで考慮に入れる
- 仕事を辞めるなら、何をして暮らしたいのか?
※いったん仕事を離れて考えてみる
- 仕事の場以外で自分はどう見られているか?
※強引、傲慢、無愛想など、悪い印象を持たれていないか考える
まずはこれらを整理してみるといいと思います。
「50代の棚卸し」で特に難しいのは「自分はこれから何をしたいのか?」というものですね。若いときと比べて、「○○がしたい」というものが意外となかったりする。あえて「本当に挑戦したいこと」から考えるのも1つの方法でしょう。「仕事の目標」は当然あると思いますが、「人生の目標」となると答えられないのです。
無理にでも「自分を見つめ直す時間」を取る
「棚卸しなんてやっている時間はない。目の前の仕事で成果を出すことで精一杯」という人もいるかと思いますが、いかがでしょうか。
山本:自分を見つめ直す時間は、意識してしっかり取らないとダメでしょう。「この仕事が終わってから」「ヒマになってから」と後回しにすると、ほぼやりません。
『50歳の衝撃 はたらく僕らの生き方が問われるとき』のエピソードでも出てきましたが、欧米の企業で導入されている用途に制限がない長期休暇「サバティカル休暇」は、自分を見つめ直すのに絶好の時間だと思います。実際、サバティカル休暇を取得した社員は、長期の休みを自己啓発や語学学習、ボランティア活動などに使っていて、仕事や生活に対するモチベーションを上げているようです。
自分を見つめ直す時間を、無理にでもスケジュールに組み込んだ方がいいわけですね。
山本:はい。できれば40代半ばまでにしっかり一度は、「50代以降の自分」を視野に入れて棚卸しした方がいいと思います。再起動の準備に時間がかかることもありますから。
時間を作っても、自分で悶々と考え込んでしまってうまくいかないケースもあります。そんなときに試してもらいたいこともあります。
(次回に続く)
50歳を目の前に、若い頃にはたくさんあるように思えた選択肢が、歳を重ねるにつれて、減っていくように感じている人も多いのではないでしょうか。「50歳」。あなたはここでどんな決断をし、どんな行動を取るのでしょうか。
本書では、様々なビジネスシーンで見聞する事実をベースに、25の葛藤物語を描いています。50歳になった人にも、これからなる人にも、きっと何かの気づきを得られると思います。ぜひ、お手に取ってみてください。
【第1章 働き方を変える】いまさら働き方を変えろと言われても/俺だって一度は勝負したい、など
【第2章 キャリアを振り返る】会社員の幸せって何だろう/ずっと「専門職」でいたい、など
【第3章 ゼロからの再出発】出向で支社長になったが、ここは……/50歳を過ぎて地方転勤、適応できるか、など
【第4章 出世は運か実力か】「派閥」に入ったために……/出世は早かったが、先が見えない、など
【第5章 部下を育てる】自分の指導スタイルでいけるはずだ/育児中の部下に負荷はかけられない、など
【第6章 仕事と家庭】若手にイラつく自分を止められない/休んでもろくなことがない、など
【第7章 “今”を生きる】自分は“今”を生きているのか
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