「50歳」の節目は、他の年齢とは違う何とも言えない「漠然とした不安」がまとわりつくことが多い。仕事の面でも、健康の面でも、じんわりと何らかの問題が生じているからだ。「自分は今のままでいいのか」「これからどう生きていけばいいのか」。そんなことを考えつつ、「人生の再構築」を検討するのが50歳だと言えよう。では、50歳前後で抱える不安や葛藤とはどのようなものなのか。どんな選択を迫られるのか。『50歳の衝撃 はたらく僕らの生き方が問われるとき』の著書である山本直人さんに詳しく聞いた。
「あと数年で50歳になるのか」「ついに50になったか」。50歳の会社員が抱える不安は、30歳になった時や40歳になった時に比べて“重い”と聞きます。節目として何が違うのでしょうか。
山本:「50歳」を迎える時期は、30歳や40歳と比べると、明らかに「人生の後半戦」を意識するようになります。後半戦ともなれば、人生の終着点も考えるようになるでしょう。親は70歳以上になっていることがほとんどで、介護をすることも含め、親の健康面でも不安が高まります。
私は48歳の時に父を送りましたが、自分や配偶者の親だけでなく、友人の親が亡くなることも増えるため、より「死」を意識し始めるのもこの時期ではないでしょうか。親の死を意識すると、「次は自分」という意識が高まってきます。「今後の人生」についても、より真剣に考えるようになるんですね。
ですから、「人生の後半戦」は、やはりこれまでとは違う気持ちになります。「終活」とまでは言わないまでも、50歳前後で多くの人が、「これからどう生きる?」という、人生の課題を突きつけられる。そこで改めて「自分は何をしたかったのか」「今の自分でいいのか」「このままでいいのか」ということを考えるわけです。こうした課題は、人生が後半戦になればなるほど無視できなくなります。
抱える悩み・不安が多い50代
内閣府が発表した平成30年度の「国民生活に関する世論調査」によると、「日常生活での悩みや不安を感じている」という人の年代別の割合は50代が69.5%と最も多いそうです(下グラフ)。こうしたデータを見ても、50歳は「不安を抱え始める」年齢と言えるでしょう。
出世・左遷、収入、健康、介護、年金、相続……。人によって不安要素は違いますが、抱える悩みは多そうです。
山本:「生涯未婚率」(45~49歳の未婚率と、50~54歳の未婚率の平均)も年々上がっていますよね。これは、「50歳時」の未婚率(結婚したことがない人の割合)を算出したもので、2015年では男性が23.4%、女性が14.1%となっています(下グラフ)。
つまり、男性の場合、ざっくり4人に1人は「未婚」なんです。未婚者で不安なのは、健康面でサポートしてくれる配偶者がいないこと。50歳にはこうした側面の不安もあります。
会社員としては「終盤戦」を迎える
会社員としては「定年」も意識し始めますよね。役職定年がある会社は、55歳ほどで今の立場も失うことになりかねません。「人生100年時代」と考えると「折り返し地点」ですが、会社員として考えると、もうかなりの終盤戦ではないでしょうか。
そうですね。競馬であれば、最終コーナーを回って最後の直線に入ったところぐらいでしょうか。最終コーナーを回った時に、いい位置(順位)につけている人は、ラストスパートをかけてトップを狙うでしょう。つまり、役員以上を目指す。
一方で、あまりいい位置につけられなかった人は、順位を気にせず、無理をしないで“走りきる”ことを優先するかもしれません。
どちらにせよ、「ゴールが見えてきたところでどうするか」ですね。
40歳ぐらいまでは同僚と差こそついても、「まだ横並び」「まだ巻き返せる」という気持ちを持てますが、それも薄まってくるでしょう。現状を踏まえ、会社員人生をどう“まとめる”か。「会社を辞めた後」の人生まで踏まえて考える必要があります。
若い頃は自分に「無限の可能性」を感じていた人も少なくないと思います。ですが、50歳だとそうはいきません。「あまり選択肢がない」と感じている人も多い。実際、若い時ほど選択肢はありませんが、そこで悲観することはありません。選べる道は少ないかもしれませんが、希望はそれなりに多いんです。
50歳を超えてから「生き方」を変えて成功している人はたくさんいます。部長や課長といった役職がなくなっても、年下から慕われ、頼りにされる人もいます。会社を辞めて、違う道で大成功する人もいる。だから、過度に不安にならないでほしいですね。
大事なのはうまく自分を「再起動」させること。50歳以降で何か新しいことをするという時に、「まだやるのか」とネガティブに考えてしまうと失敗します。そこで、「まだやれるのか」とポジティブに考えることが重要です。
自分を見つめ直すのが50歳
50歳ともなると、会社はもう面倒を見てくれません。自分自身で考え、道を切り開いていかなければなりません。そのためにも、自分を見つめ直すことが大切で、それが50歳前後で直面する課題なんです。
ですから、50歳は自分を見つめ直して「生まれ変わる」には、最適な年齢だとも言えます。
50歳からの「再起動」がうまくできない人もいますよね。「こじらせ50代」と言うか、会社の中でどんどん浮いていくような感じの人です。覇気がなかったり、負のオーラを出していたり…。
そういう人も確かにいますね。こじらせてしまう理由はいくつかあります。
(続きは次回)
50歳を目の前に、若い頃にはたくさんあるように思えた選択肢が、歳を重ねるにつれて、減っていくように感じている人も多いのではないでしょうか。「50歳」。あなたはここでどんな決断をし、どんな行動を取るのでしょうか。
本書では、様々なビジネスシーンで見聞する事実をベースに、25の葛藤物語を描いています。50歳になった人にも、これからなる人にも、きっと何かの気づきを得られると思います。ぜひ、お手に取ってみてください。
- 【第1章 働き方を変える】いまさら働き方を変えろと言われても/俺だって一度は勝負したい、など
- 【第2章 キャリアを振り返る】会社員の幸せって何だろう/ずっと「専門職」でいたい、など
- 【第3章 ゼロからの再出発】出向で支社長になったが、ここは……/50歳を過ぎて地方転勤、適応できるか、など
- 【第4章 出世は運か実力か】「派閥」に入ったために……/出世は早かったが、先が見えない、など
- 【第5章 部下を育てる】自分の指導スタイルでいけるはずだ/育児中の部下に負荷はかけられない、など
- 【第6章 仕事と家庭】若手にイラつく自分を止められない/休んでもろくなことがない、など
- 【第7章 “今”を生きる】自分は“今”を生きているのか
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