ヤマトは正々堂々としている

ヤマトグループは2017年、現場の長時間労働や残業代の未払いなどの問題が表面化しました。

楠木:それについて私が思うのは、しつこいようですが、やはり論理というのは常に時間を持っていて、優先順位の問題である、いうことです。例えば「安全第一、営業第二」とか、小倉さんの言葉は常に論理を背負っている。小倉さんは生前、新しいサービスを開発して、普及させてきました。

 もちろんコストかかかります。けれど、その良さを理解したお客さんが価値を感じて使うようになる。もちろん対価も払う。結果的に規模の経済も発生してコストも落ちるので利益が大きくなっていく。だから「サービスが先、利益は後」なんだと、宅配便の開発以来、小倉さんはずっとやっていらしたわけです。

 対して最近のヤマトは、本来十分に価値のあるサービスなのに、それに対する対価をきちんと顧客に求めていなかった。そのしわ寄せが、現場を直撃したのでしょう。これは宅急便事業の前半フェーズを手掛けていた小倉さんが、直面してない問題です。

 顧客第一と考えると、料金は安い方がいいに決まっている。値上げをするという発想は、自然とは出てこなかったかもしれません。ただ宅急便に十分な価値があるならば、単純な一律の値上げではなく、価値に応じた値上げは求められるわけです。

 不在率の高い荷主と低い荷主で割引率に差がないのはおかしいし、運賃をコストに見合った金額に設定することが大口顧客にできていなかった。単に値段を変更するだけではなく、大口の法人顧客と一緒に不在率を下げる取り組みをしていくとか、検討するべきだったのでしょう。

 本来の論理と価格設定がずれていたんじゃないかと私は思っています。だからこそ、論理的に筋が通るように問題に対処しようとヤマトは動き始めた。問題が表面化して経営としても対策を打つことになった。問題になってからは、非常に論理的な対応策が実践されていると思います。ただ繰り返しますが、こういった局面は、小倉さんの生きている時にはなかったことです。

小倉イズムを引き継いだ現役の経営トップが対応しなくてはなりません。

楠木:ただやはり私は、ヤマトはとても正々堂々としていると思いますね。正々堂々としているし、理屈の通らないことはやらない。小倉さんの言葉で言うと、「人格があるように社格がある」。そういう経営を続けてきたからこそ、ヤマトは非常に社格の高い会社として、世の中が受け止めているように思います。

 東日本大震災後の「宅急便1個につき10円を1年間積み立てて寄付する」という被災地への支援策も特筆ものでした。金額は約142億円にもなった。社格のようなものがない会社は、同じことを実践しても、こうした成果にならなかったでしょう。

 AI(人工知能)やビッグデータなどの新しい技術をヤマトは今後使えるわけです。それを活用した取り組みが進むのではないでしょうか。ただ今後の取り組みについても、優先順位をどう考えるのかということが、最も本質的な問題になるはずでしょうね。

 ヤマトの経営者とはどんな人たちなのか。ひと言で表現するなら「ものごとを常に順番の問題として考える、論理で動いている経営トップ」なのではないかと思います。