経営者に必要なのは「論理的な確信」

上司だけではなく、同僚や部下からも評価される360度評価を導入した企業はかつて、それなりにありましたが、現在ではその多くがやめてしまいました。

楠木:小倉さんの後にヤマトグループの経営に携わった方々の話で共通していることがあります。それは、時間的な奥行きをもって、僕の言葉で言うと「戦略のストーリー」をつくって動かしているということです。先ほどの「サービスが先、利益は後」というストーリーは、当然ながらサービスを始めた段階では我慢をしなくてはなりません。

 これは宅急便だけでなく、クール宅急便をはじめとするほかの新しいサービスに乗り出す時には常に起こる問題です。いきなりの成果は見込めないわけです。成果はあくまでじわじわと生まれてくる。ブレークイーブンまで、我慢を重ねて頑張らなくてはならないのです。普通は頑張れませんよね。手っ取り早く成果を得ようとして、結局は独自の価値をつくれないまま終わってしまう。

 それなのになぜ、ヤマトグループでは社員のみんなが頑張れるのかというと、経営トップが論理的だからです。

 まず、小倉さんの中に論理的な確信がある。逆に論理的な確信を持てないことはやっていません。そしてこの論理的な確信が、一緒に働く社員たちと共有されている。だから今は辛いけれど、将来にこういうことが起こるんだと、みんなが信じられているのです。

 私は、小倉さんの経営の一つの本質は、彼の論理を浸透させて、現在まで継承されてきたことだと考えます。

 宅急便を始める時の“密度”などは、小倉さんが論理的な確信を持っていました。密度が成功のカギとなり、積載する荷物の量ではない、と。もっとも、ほとんどのビジネスは実践してみなければ、分からないものです。しかも、いかに事前にシミュレーションを重ねていても、本当はどうやったらいいのか分からないものです。

 ですから私は、優れた戦略ほど、経営者が事前によりどころにするのは、もう論理的な確信しかないと思うんです。小倉さんの場合は、その論理的な確信がすごく強い。それだけ論理的な経営者であったということなのでしょうね。

(後編に続く)