小倉さんは「論理」の経営者だった

楠木:論理というのは常に時間を背負っています。つまり「AであればBである」という因果関係の本質です。論理は必ず時間的な奥行きを持つものですから。

 言い方を変えると、論理がない人は、思考や発言が箇条書きになるんです。「大切なことが3つある。AとBとCだ」と。これには時間的な奥行きはありません。一方で、論理を持つ人は常に思考の中に時間が入っている。「こうやるとこうなる、だからこうなってこういうことができる。だから今はこうしよう」と。

 論理的であることと時間的な奥行きがあることは、ほとんどイコールです。そして、小倉さんの思考や行動には、一つひとつ時間的な奥行きがある。そこに小倉さんがいかに論理的な経営者だったかということが表れていると、私は思います。論理で語るから、多くの人が学ぶことができる、有用な知識にもなるわけです。

小倉昌男 経営学』が長く読み継がれてきた理由は、ここにあるのですね。

楠木:そうですね。例えば同業の経営者を対象に、何が大切か4つ挙げなさいと言った時、よほど変わった人でない限り、みなさん、ほぼ同じことを考えると思います。その4つにどんな因果関係を見て、どの順番で実行するかというのが、経営能力の8~9割を占めるのではないでしょうか。

まず優先順位を付けることが大切だということですね。

楠木:「で、どうなるの?」に対する答えがあるということです。繰り返しますが、「サービスが先、利益は後」という言葉には、時間的な奥行きという論理が凝縮されています。小倉さんはほかにもいろんな言葉を残していますよね。例えば、「会社はフルーツポンチだ」という言葉。会社にはいろいろな人がいて、互いに補完関係があって、組織は成り立っている、と。

 またヤマトではお客様に喜んでもらうのが基本的な評価基準であり、第一線で働く社員、つまりお客様と接するセールスドライバーが最も価値が高く、その中でもお客様に喜んでもらえる社員の評価が高い、という話が出てきます。

 『ヤマト正伝』の中では、現場の社員を成果で評価しましょうという動きがあったことも紹介されています。それはそれで理屈があるのでいい面もあるけれど、結局は実現しませんでした。ここにも小倉さんの論理、つまり時間的な奥行きがよく出ていると思います。

 「成果や実績で評価したらどうなると思うか」ということです。どういうことが起きるのか。それは先ほどのフルーツポンチとか、お客様に喜ばれるのがいい社員なんだという言葉とずれるので良くないと考えた。

 けれど論理がない人は、具体のレベルで右往左往します。例えばこんな評価方法がありますとか、基本給と成果給の割合をこうしましょうとか、評価者研修はこうしましょうとか。ある会社はこんな評価制度を導入して成功しています。こんないいことが起きましたから成果型評価をやりましょう、みたいな。

 そうではなくて、フルーツポンチやお客様に喜ばれる社員像を求めて、小倉さんは360度評価を採用していきます。これは論理的な確信に基づいて決めていったのです。