小倉さんの経営学は「論理」が貫かれている

楠木:やはり時代を超え、業種を超え、世代を超えて語り継がれる本質を考えて、それを形にした経営者が、小倉昌男さんだったのです。

 改めて『小倉昌男 経営学』を読んだ後に、『ヤマト正伝』を読むと、再確認することがあります。小倉さんの紡ぎ出した経営哲学は、なぜ今まで語り継がれ、大きな影響を広く与えるのかというと、小倉さんが極めて論理的だからです。論理というのは要するに具体的、即時即物的な具体を抽象化して得られた本質です。要するにこういうことなんだ、というものでもある。

一連のインタビューで、例えばユーグレナの出雲充社長は『ヤマト正伝』を読んで、「直間比率の部分が響いた。本社の会議を減らしたい」と語っていました。

楠木:直間比率というのはまあ具体的な話で、それをもっと具体的にすると会議をこうやって短くする、となるわけです。そうした一つひとつの具体が、かなり抽象度の高い小倉さんの論理から出てきている。読んでいる人がその論理を軸に考えるので、時間、空間を超えても意味があるわけです。

 そうじゃないケースの場合、人によっては、自分のやってきたことの具体例をべたべたに語る人がいますよね。もちろんその人の成功から学ぶべきことはあるでしょう。けれど具体の文脈にどっぷり浸かって語られていると、そこから違った文脈にいる多くの読者は、なかなか教訓を得にくいはずです。

 その点、小倉さんはもともとの経営に対する考えがとても論理思考です。だから普遍的にみんなが教訓を得ることができるし、『小倉昌男 経営学』のような本もお書きになれる。彼の歩みを後世の人たちが知っても、そこに有用なメッセージを見つけることができるのでしょう。

(中編に続く)

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