イノベーションとコストリダクション

平野:私は2016年に社長に就任しましたが、スーパードライ以来、大きなヒットがないことに何よりも大変な危機感を抱いておりました。そこで私は、次の2つを言い続けています。一つは「イノベーション」、すなわち成長戦略。もう一つは「コストリダクション」、すなわち聖域なき構造改革です。

 我々メーカーは、イノベーティブな商品を世に送り出し続けなければ、生き残れません。その前提として、「聖域なき構造改革」を掲げておりました。コストリダクションはリストラなどのコストカットとは違います。従前は調達部門だけが取り組んでいましたが、商品設計から始まり、各バリューチェーンを巻き込んで、全体で取り組んでいくものです。

 私は副社長になった時から、ビールに限らず、発泡酒、第3のビール、RTD(缶チューハイなどのレディー・トゥー・ドリンク)、ワイン、焼酎、ウイスキーなど、すべてのカテゴリーでナンバーワンを取っていく、と考えています。シェアだけではなく技術でも。競争優位なポジションを確立して次のイノベーションにつなげていく。

 コストリダクションは本社の仕事です。しかし一方で、大きな商品を育成していくのは現場の仕事だと思います。ノンアルコール(アルコール分が0.00%)のビールテイスト飲料「ドライゼロ」、輸入チリワイン「アルパカ」などは、4~5年かけてナンバーワンになりました。それも大規模にテレビ広告を打って伸ばしたのではありません。営業現場が、日本各地を頑張って売り歩いて、最後に首都圏を攻略していったのです。本社主導ではなく、現場の草の根運動でブランドをつくっていった。

主戦場であるRTD、第3のビールでも、2016年春発売の新商品が相次いでヒットするようになりました。技術的なイノベーションも生まれました。

平野:これまで一度として売れたことのなかった缶チューハイでも、「もぎたて」が初めてヒットしました。また麦芽の量を増やしても糖質を抑える技術を開発している間に、新しいイノベーションを起こすこともできました。それを2017年発売の第3のビール「贅沢ZERO」に導入していて、ヒットしました。

 アサヒビールは2016年秋、総額1兆2000億円を投じてイタリアや東欧のビール事業を買収しました。スーパードライをグローバルブランドに育成する一方、麦芽を増やしても糖質を抑える新技術を使って、海外の健康志向に対応する商品を展開したいと考えています。イノベーティブなモノ作り企業として、世界市場の中で存在感を持っていきたいですね。

 もっとも、国内あってのグローバルであることに変わりはありません。小倉さんは、理詰めで儲かる宅急便をつくり出しました。特に「密度」を打ち出した。密度とは車輌の積載率であって、それはシェアに相当します。

 ビール業界では、「シェア争いはよろしくない」とよく言われています。ただしそれは、ムダなお金をかけて疲弊し合うシェア争いのことを指す。我々に求められるのは、単純なシェア競争ではなく、イノベーションを伴う価値競争なのです。

 宅急便において、密度は集配する地域の面積が一定ならば、総量で決まります。地域で荷物を増やせば、利益は自ずと上がるわけです。理論はもちろん、全員経営など、小倉さんの考え方は学ぶ点が多いのです。