過去の成功体験が、改革を阻まないように

個人間の荷物のやり取りからスタートした宅急便でしたが、ネット通販などが急拡大するなど、ビジネスモデルが変わっていきます。現在では、個人から預かる荷物は全体の1割ほど。取扱数量は2011年度と2016年度を比べると、5年間で3割以上も増えています。

平野:小倉さんは理論をもって、宅急便を開発されていました。イノベーションの背景には、小倉さんの理論があった。工場から出るテレビなど家電の配送や、百貨店の配送といった法人相手よりも、一般消費者間の小口荷物の方が実は単価が高いということを、分かっていたのです。

 宅急便を始めたヤマト運輸の歴史は、イノベーションの歴史とも言えます。そして、それを主導されたのが、2代目社長だった小倉昌男さんでした。会社の経営環境が厳しくなる中で、従来の運送業から宅急便へ事業構造を変えて成功した。

 さらに、『小倉昌男 経営学』や『ヤマト正伝』にあるように、クール宅急便やスキー宅急便を開発していく。

 「サービスは先、利益は後」は小倉イズムの象徴です。ただし、最近のヤマトさんの現状を外から見ていると、宅急便の成功が足かせになっている部分もあるのではないでしょうか。羽田や沖縄に総合物流ターミナルを建設してグローバル化に対応していくなど、イノベーションを進めています。その結果、売上高は着実に増えている。それにも関わらず、決算書を見ると、営業利益率は落ちている。

 人手不足、労働条件、単価、ネット通販の猛烈な伸張など、いくつもの問題に直面しているのでしょう。1日11個から始まった宅急便は、今は年間18億7000万個(2016年度)にも達しています。外部環境の変化は早すぎて、会社としての対応が追いついていけなかったのだと思います。

 運賃の改定や宅急便サービスの一部廃止、さらには働き方改革などについて2017年4月に発表されましたが、まさに急務だったでしょう。

ヤマト正伝』の中で、ヤマト運輸の長尾裕社長とヤマトホールディングスの山内雅喜社長は、今後の改革について触れています。ただイノベーションによる成功体験を超えて、再び改革を起こすのは本当に難しい。アサヒビールにも、スーパードライという巨大な成功体験があります。それを聖域化すると、新たな改革は難しいのではないでしょうか。

平野:今、ヤマトグループで起こっていることは、決して対岸の火事ではないと思っています。成功体験に安住する会社に、明日はありません。