難しい道を選ぶほど人間は強くなれる

ネスレコンフェクショナリーやネスレ日本の社長を通して、小倉さんから学んだことはありますか。

高岡:一つは、難しいことから選択しなさい、ということでしょうね。

 もともとネスレコンフェクショナリーは、ネスレと不二家の合弁会社としてスタートしました。ですから、不二家から出向で来ていた社員も多かった。私にとっては、他社の出向社員と一緒に働くのは初めてのことでした。

 ネスレ日本の出向社員は大卒が多かったけれど、ネスレコンフェクショナリー全体で見ると、高卒の社員もたくさんいました。そこで感じたのは、日本という国で見れば、高卒も大卒もそんなに変わらないということです。高卒だからといって、大卒より仕事ができないかというと、決してそんなことはない。

 皆さん、経営者や管理職になると「優秀な部下をくれ」というけれど、それは自分の自信のなさではないでしょうか。

部下が優秀であるほど、管理職はラクをできる、と。

高岡:そうかもしれませんね。私がネスレコンフェクショナリーの社長だった頃、不二家では消費期限切れの原材料を使っていた不祥事が発覚して、不二家は山崎製パンと資本業務提携を結ぶことになりました。きっと当時、不二家からネスレコンフェクショナリーに出向していた社員の中には、もう不二家には戻れないかもしれないと思っていた人もいたのではないでしょうか。もしかすると、出向させられたことに対して、悔しい思いを抱えていたのかもしれません。

 ただ、きっとそうした思いがあったからこそ、新天地のネスレコンフェクショナリーで一生懸命頑張って、キットカットを売ってくれた。

 私はこの時、辛い経験をした人ほど、逆境に強くなったり、苦境を跳ね返して見返してやろうと思ったりする、強いエネルギーがあることをまざまざと感じました。

 そして、そういうエネルギーは、組織の中ではすごく大切なのです。ネスレ出身であろうが不二家出身であろうが、大卒であろうが高卒であろうが関係なく、みんなが一丸となってくれた。

 この頃の経験を通して、「スワンベーカリー」に小倉さんが託した思いを少し理解できるようになった気がするんです。

どういうことでしょう。

高岡:実は私、ネスレコンフェクショナリー時代に、小倉さんの手掛けた「スワンベーカリー」を訪れたことがあるんです。小倉さんはここで、障がい者の人たちだけでベーカリー店を経営し、成功させようとしました。

 社会の中で弱者といわれ、ハンディキャップがある人々だけで事業を展開するのは、決して簡単なことではありません。それも慈善事業ではなく、商売として成立させることは難しかったはずです。ただ、小倉さんはその難しい道を選ばれた。

 本当に優秀な人間は、やはり難しい方を選択するのだとつくづく感じました。難しい道を選ぶほど、人間は強くなれるし、知恵も出る。そしてイノベーションも生まれるようになるはずなんです。

難しい道をあえて選ぶ。思えば小倉さんはヤマト運輸時代も同じように宅急便1本に絞るという、極めて難しい選択をしています。こうした小倉イズムは、それ以降も続いているように感じますか。

高岡:小倉イズムやヤマトイズムがこれだ、という確信がないのでうまく表現できませんが、ただ、小倉さんがやってきたことの意味が何かということを考えていくと、私の目標とする創業家社長のようなサラリーマン社長に少しは近づけるんじゃないかな、と思っています。繰り返しますが、退任時の潔さも含めて、学ぶところはとても多い。

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