「経営とは論理の積み重ねである」

同じような苦労を、辻社長もしてきたのでしょうか。

:特に創業当時はリソースがないので、あれもこれもはできません。ですから「この数字だけを見よう」と決めて、それだけをやってきました。すると、会社全体が一つの目標に集中するようになるんです。

 例えば私たちの手掛ける個人向けの自動家計簿・資産管理サービスは、やはり初めて利用する人にとっては怖いサービスだと思うんです。銀行やクレジットカードのIDやパスワードを登録していただくわけですから、サービスを使い始めるまでには高いハードルがある。ただ一方で一度登録していただくと、満足して長い間使っていただけることも分かっていました。であれば、まずは利用者に銀行やクレジットカードの情報を登録していただくことが先決になる。その登録率だけを見ていた時期がありました。

目標を一つに定めると、組織も一体となって設定された数字を追うようになりましたか。

:組織はしっかりまとまるし、それだけを追うことに集中するので結果も出ます。ただその目標設定を間違えばたちまち経営危機に直面するわけですから、絶対に間違えることができません。

現在はいろいろな経営指標を設定しているのでしょうか。

:いろいろな指標がありますね。ただ逆に言うと、いろいろな指標に引っ張られ過ぎている面もある。だから私たちがユーザーに届ける価値を最大化するためには、どの指標が最も大切なのかを、改めてもう1度定義する時期に来たと思っています。

どんな時に、『小倉昌男 経営学』を読み返していますか。

:迷った時ですね。先ほどのように、どんなメッセージを社員に伝えるかとか、どんな指標を置くかとか、小倉さんの思考回路が参考になるんです。

 宅急便であっても、当社のサービスであっても、利用者側にニーズや課題があって、それを解決するのが私たちの仕事です。そしてサービスを喜んでいただいてお金をもらう。それは宅急便であっても、当社の法人向けのクラウドサービスや個人向けの自動家計簿のサービスであっても一緒です。

 つくりたい世の中があって、たくさんの高い壁があって、それをどう乗り越えていくのか。みんなが途中で諦める中で、小倉さんは諦めずに自分を信じて形にした。その話はとても参考になりますし、勇気をもらえます。

特に印象に残っているフレーズはありますか。

:「経営とは論理の積み重ねである。中には成功した他社のまねだけをしているだめな経営者もいる。だが、なぜ他社が成功したか、自社の経営に生かすにはどこを変えるか、論理的に考える必要がある。考える力がなければ経営者とは言えない」

 「企業は社会的存在である。それは財なり、サービスなり、社会に貢献するための」。

 ほかにも「経営者には論理的思考と高い倫理観が不可欠。論理的思考ができない人に経営者となる資格はない、経営者は自立の精神を持たなければならない」とか。

 経営をしていると、どうしても思いつきとか、ロジックではない部分で動いてしまうことがあるんです。ロジックを積み立てて考え抜くのは本当に苦しい。答えがあるかも分からないし、全員に反対されることもしょっちゅうあります。でもそこを乗り越えないと誰も描いたことのない世界をつくることはできないな、とも感じています。