会社が最優先すべき指標は何か

:宅急便を始めた当初、ヤマト運輸では営業所長に業績を一切明かさず、荷物の翌日配達を実現することだけを徹底していたそうです。ブロック別に荷物の不在率などを洗い出して、翌日配達ができていないところは何が問題なのかを調べて、それを改善することに専念した。現場の社員は翌日配達の実現率だけを議論していたのだそうです。

 小倉さんはサービス品質を高めれば、必ず利用者が付いてきて荷物の密度が上がって利益が出ると考えていた。このロジックも完璧ですし、サービス品質を上げるために一番大事な指標が、翌日配達の実現率であり未配達率を下げることだと見抜いていたことも素晴らしい。

 会社を経営していると、どうしても目先の売り上げや利益を気にしてしまいます。けれどしっかりと考えて優先順位を付けないと、目の前の売り上げが中長期の成長を先食いしてしまうリスクだってある。お客様の満足度をないがしろにして利益だけを追えば、いつかお客様は離れてしまう。

 当社のビジネスには個人向けサービスと法人向けサービスの両方がありますが、ともに売り上げを最大化することばかりを追えば、お客様の満足度が落ちていつかは利益が生めなくなるかもしれません。本当にお客様が満足してくださっているかどうかを知る指標は何なのか。マネーフォワードが最優先すべき指標は何なのか。それを考えようと、役員たちに宿題を出したのです。

 ただ、この宿題を出すのも良くないかもしれませんね。小倉さんならきっと自分で考えたはずですから。

小倉昌男さんが生きていれば、同じ経営者として何を聞きたいですか。

:聞きたいことが多すぎて迷いますが、やはり思考の深め方は知りたいですね。小倉さんは、宅急便事業を始める時に、そのコンセプトを「宅急便開発要綱」にまとめています。

  • (1) 需要者の立場になってものを考える
  • (2) 永続的・発展的システムとして捉える
  • (3) 他より優れ、かつ均一的なサービスを保つ
  • (4) 不特定多数の荷主または貨物を対象とする
  • (5) 徹底した合理化を図る

 これを自分で書いて、トップダウンで進めたというのですが、これは本当に考えに考え抜いた最後の一滴だと感じます。私もこういうものを作りたいと思っているんです。

 先の見通しづらい世界や誰もまだ信じていない世界をどのように見通すのか。その世界をみんなにどのように信じてもらって組織を動かすのか。経営者としてどうやって情熱を保ち続けていくのか。

 『小倉昌男 経営学』の中には、自分の頭で考え抜くことが経営者の役割であるという言葉が何度も出てきます。本当に身につまされます(笑)。今の私のレベルではできてない。レベルが違うんです。けれど、死ぬまでに小倉さんのレベルに到達したいですね。

 繰り返しますが、『小倉昌男 経営学』ではサービスを発案して、具体的な課題をどのように乗り越えていくのかが時系列で分かりやすく描かれています。そしてその具体例がとても参考になるんです。

 小倉さんは、考えに考え抜いた一番大事なことを、シンプルなメッセージで誰にでも伝わるように話すことが一番難しいし、大切なんです。芸術でもそうですが「加える」ことは簡単です。一方で省くことは、経営でも芸術でも難しい。1点に絞って色々な要素を切り捨てていく。いらないものを切り落として本質だけを残すことはなかなかできません。まさにわびさびの世界なんです。