経営理念の中で最も大切なのは「変化対応」

日経ビジネス編集部では、小倉昌男さんの後を継いだ経営者たちが、小倉イズムをいかに守り、引き継いできたのかを書籍『ヤマト正伝 小倉昌男が遺したもの』にまとめました。奥田さんは事業承継という点で、ご自分の経営理念をどのように次代に伝えていますか。

奥田:私が自分の経営理念の中で一番大切にしているのは、変化対応です。時代の変化に対応できない企業は淘汰されてしまいます。一度確立されたビジネスモデルは、永遠ではありません。

 ですから私は、いつもみんなにこう話しています。「今日のビジネスモデルは、もう過去のビジネスモデルだと思え」と。ビジネスモデルは常に進化をしていかなくてはなりません。ですから「私の経営のいい部分は残してくれても構わんけれど、君らが悪いと思うんやったら、すぐ僕のことを否定してくれ」と伝えているのです。私だって、前任者からバトンタッチを受けて、ダメな部分は消してきたわけですから。

 そしてもう一つみんなに伝えているのは、経営者には2つ役割があるということです経営トップの仕事は、目の前の1~2年の業績をいかに上げていくかを考えると同時に、5年先、10年先に企業がどれだけ成長していけるかを考えなくてはなりません。2つの天秤が、両方とも大切なんです。

 仮に今日や明日のことだけを見ていると、将来がダメになってしまいます。けれども、将来ばかり見ていると、目の前の穴に落ちてしまう危険がある。このバランスは、とても難しいものです。

宅急便も変わらなくてはならない

奥田:繰り返しますが、経営とは変化対応の繰り返しです。大丸は、江戸時代には日本一の呉服屋でした。けれども明治時代の変化に対応できず、明治末期には倒産しかかります。企業を清算しなくてはならないところまで追い詰められた時に、新しい経営者が出てきました。そして、生きのこるために呉服屋をやめて、百貨店にやろうと決断を下した。

 当時の取締役会の記録が残っていますが、賛成半分、反対半分だったそうです。呉服屋だけをやっていけばいいという人、呉服屋は限界だから百貨店に変わろうという人、それぞれいたのです。けれど結局、ここで百貨店に変わったことで、時代の変化に対応して生き延びることができた。

 かつてのように時代の変化を読み取り、変わっていくこと。この決断はとても難しいし、経営トップにしか下せません。そして決断を下す経営トップは本当に孤独でもある。社長と副社長とでは、その危機感は全く違うものなのです。

 私も兄(奥田碩・トヨタ自動車元社長)も、まさか社長になるとは思っていなかったのに社長を務めることになりました。若くして大丸の社長に就いた私に求められたのは、やはり変化への対応だったのだと思っています。

 そして宅急便も今、大きな時代の変化を目の前に変わることを余儀なくされています。およそ40年前、個人間の荷物のやり取りから始まった宅急便は、インターネット通販などの拡大に伴い、企業から個人へ届ける荷物が急速に増えている。どのように変わっていくのか。ヤマトホールディングスの現役経営陣も今、変化に対応する覚悟が求められているように感じます。

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