答えは考えに考え抜いた先にある

奥田:先ほど説明した通り、経営には「理論」「実践」「結果」があるわけですが、「理論」と「実践」の基盤になるのは、自社のビジネスモデルをどう作り、どのように実行するかと考えることにあります。

 私は1997年に大丸の社長に就任してから、大幅な改革を実践して大丸を再建しました。この再建に当たっては、色々な人に話を聞きました。コンサルタントや異業種の経営者、大学の先生などに、「どう思いますか」と意見を聞き回ったわけです。

 けれど、結局は経営者である私自身が考え抜いて決断を下さなくてはなりません。

 会社の再建とひと言で言っても、市場環境や自社が保有する経営資源、競争力など、その企業の諸要件は千差万別です。だから、どこかの会社でうまくいった改革事例が、そのまま自社に当てはまるということは、決してありません。

 最後は経営者が考え抜いて、自分の会社に最もふさわしい理論を作り上げ、それを実践して、結果を出すしかありません。つまり答えは、経営者が考えに考え抜いた先にしか、あり得ないのです。

小倉さんは、「サービスが先、利益は後」「全員経営」などの短くて印象的な言葉もたくさん遺しています。

奥田:実は、「サービスが先、利益は後」という言葉については、当社の方が先輩なんですよ。

 大丸には、「先義後利(せんぎこうり)」という事業の根本理念があります。業素である下村彦右衛門が、江戸期の1736年に定めました。中国の儒学の祖の一人、荀子の栄辱編の中にある、「義を先にして利を後にする者は栄える」から引用したもので、「常にお客様と社会のことを第一に考えて行動すれば、利益というのは自ずと生まれてくる」という意味のものです。

 大丸が松坂屋と合併した時にも「先義後利は大切にしていこう」と考えて、J.フロントリテイリングの経営理念にも入れています。大丸は1717年に創業して今年で300年。創業者から受け継いできた大丸の経営理念と、小倉さんの教えが重なっている点も、私は深く感動を覚えました。

 社長時代、私は事あるごとに「先義後利」と言い続けました。入社式や社員研修でも徹底して繰り返してきた。そうして「先義後利」を当社の企業文化として守ってきたのです。

 荀子は「先義後利」とは逆の先に利があって義が後に来る「先利後義」についても触れていて、「先利後義を実践する者は辱められる」と書かれています。今の日本の社会に起こっている企業の不祥事は、私から見ると、いずれも「先利後義」を実践したもののように感じられます。荀子は改めて、「先義後利」を実践せよと、日本企業を戒めているのではないでしょうか。

(後編に続く)