「百貨店は旧態依然として何も変わっていない」

奥田:小売業におけるイノベーションとは、経営の仕組みを変えることだと私は思っています。イノベーションというと、どうしてもすぐにIT(情報技術)に目が行きます。けれどイノベーションはモノ作り産業だけに関わるものではありません。

 例えばセコムだってセキュリティーサービスという点で、今までなかった新しいビジネスモデルを創出したわけですから立派なイノベーションです。

 企業の栄枯盛衰を振り返ると、常に新しいビジネスモデルを生み出していかなくては、成長が止まってしまいます。米ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が著した『イノベーションのジレンマ』にあるように、一度成功したビジネスモデルにこだわっていると、次のイノベーションによって新たなビジネスモデルが誕生し、旧態依然のモデルは破壊されてしまいます。

 百貨店は、まさにその典型例と言えるでしょう。私はもう相談役に退いているので、百貨店業界に苦言を呈したくはありませんが、それでも日本の百貨店業界はかつて一斉を風靡した当時から、ビジネスモデルがほとんど変わっていません。

 もう3〜4年前のことでしょうか。私は、J.フロントリテイリングの会長兼CEO(最高経営責任者)を退く直前に、欧州の全世界百貨店協会で講演をしてきました。この時、晩餐会で隣に座った英国の小売業経営者から「日本に行くと、驚かされることが3つある」という話を聞いたのです。

 社交辞令かもしれませんが、最初に挙げたのは百貨店の素晴らしいサービス。そして2つ目が宅急便でした。時間を指定すると、約束通りにきっちりと荷物が届けられる。それが英国では考えられない、というのです。最後の3つ目は新幹線でした。長距離を高速で走っているのに、一分と違わずに運行している。

 この3つは日本の奇跡だと言うのです。多分、百貨店はお世辞でしょうが、宅急便の国際的な評価が新幹線と同格だということに、私は大きな感銘を受けました。

経営とは「理論」「実践」「結果」

奥田:冒頭の話に戻ると、私が学生に『小倉昌男 経営学』を推薦した2つ目の理由は、理論と実践が共に描かれていて、ロジックをきちんと実行して結果を出している部分にあります。宅急便というサービスを設計し、実践し、成功していくプロセスが綿密に描かれているのです。

 私の経営哲学は、「理論と実践を一致させて、最終的には結果を出さなければならない」というものです。「理論」「実践」「結果」という3つの要素が一つにならなくては経営はできません。そして『小倉昌男 経営学』では、この3つの要素がうまく整理されています。小倉さんは、ご自分で考えた理論を実践し、宅急便というサービスを日本中に普及させました。理論だけ優れている本とは、やはり違いますよね。

 『小倉昌男 経営学』を推薦した3番目の理由は、経営で一番大切なのは考え抜くことだと、小倉さんが指摘していることにあります。

 「経営とは自分の頭で考えるもの、その考えるという姿勢が大切」「経営とは論理の積み重ねであり、考える力がなければ経営者とはいえない」と小倉さんはおっしゃっている。私はここに、ものすごく感銘を受けたんです。

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