イノベーションは「アイデア+実行力」

組織を束ねる部分以外に、小倉さんの取り組みで参考になった点はありますか。

村上:小倉さんの考え方は、基本的に消費者の生活を便利にしよう、消費者がほしいものを作ろう、というものでした。「ゴルフに行きたいけれど、荷物が重いよね」「冷蔵の荷物を送りたいけれど、今のままだと難しいよね」など、まずは消費者がほしいものは何かというところからアプローチして、どうやったらそれが実現できるのかをひたすら考え続けている。「あると便利なもの」を思い描いて、それを実現するために壁を1つずつ取り除いているわけです。

 当社も「あたりまえを、発明しよう。」というコーポレートビジョンを掲げていて、ロゴには、はてなと滴を使っています。はてなは発想を象徴していて、「どんなものがほしいかな」とお客様の視点で考えること。滴は「雨だれ石をうがつ」を象徴していて、粘り強く壁を壊していく姿勢を示しています。小倉さんの強さもそこにあると思うんです。クール宅急便の開発時、どうすれば実現できるのかをひたすら考えて、改善し続けていった。

 結局のところ、イノベーションは「アイデア+実行力」なのだと思います。どのように実現するかというところでしんどい壁があったり、つまずく障害物があったりする。それをどう乗り越えるかが実は最も難しい。

 誰だって「空飛ぶクルマがあると便利だ」ということまでは考えられます。けれど、それをどう実現するのか。形にするまで考えられるかどうかが大切なんです。

「利他の思い」が世の中を変える

「雨だれ石をうがつ」執念のような実行力がイノベーションには欠かせない、と。ほかにも小倉さんの規制と闘う姿勢に共感したと聞きました。

村上:理想を追い求め続けて、迎合しない。何が答えかという自分の軸がないと、国と闘ったりすることはできないと思うんです。「つくるべき世界」に対するピュアな思いと、それを実現するべく壁を取り払う実行力。良いサービスをつくるためにいろいろな壁を越えていく姿勢や、世の中を良くしていこうとする使命感。「自分自身のため」という利己の心だけで、あそこまで闘えないと思うんです。正義感や利他の思いがなくては乗り越えられなかったはずです。

 ただ同時に、きっと小倉さんは規制と闘っている間も、この先事業がうまく行くのか、会社の経営は厳しくなるのか、監督官庁と闘って勝てるのか、といったことも考えていたのだと思います。経営者として緻密に計算して、一方では現場を鼓舞する。『小倉昌男 経営学』を読むと数字がたくさん出てきて、やたらロジカルに考えています。緻密な経営者だったのだと思います。

 経営に一つの「正解」はありません。だから私も考えに考え抜いて、そして一定のところまで考えたら、決断して思い込む。思い込む力も大事だと思っているので。

 小倉さんも同じだったはずです。これが絶対だと思って宅急便をはじめて、成功してくるとライバルが続々と参入してきた。当時の小倉さんは、ライバルの参入を厭いませんでした。それは「ヤマトが市場を切り拓く」「ヤマトでなくては絶対にダメなんだ」という使命感や自分を奮い立たせる思いがあったのではないでしょうか。ライバルの参入を認めた上で、どう勝つかを考えるように思考を転換していますから。

小倉さんにもし今、会うことができたら、村上社長は何が聞きたいですか。

村上:規制と闘ってきた人ですし、反骨精神が強そうな気がするので、今、世の中で一番イライラすることは何ですかと聞いてみたいですね。今の日本や社会において、変える必要があるものは何なのか。社会をより良くするために何が一番必要ですか、と。小倉さんはどう答えるんでしょうね。