宅急便の生みの親にして、戦後有数の名経営者・小倉昌男氏。彼の自著『小倉昌男 経営学』は、今なお多くの経営者に読み継がれている。
ヤマトグループは小倉氏が去った後も、氏の経営哲学を大切に守り、歴代トップが経営に当たってきた。日経ビジネス編集部では今年7月、小倉氏の後のヤマト経営陣が、カリスマの経営哲学をどのように咀嚼し、そして自身の経営に生かしてきたのかを、1冊の書籍『ヤマト正伝 小倉昌男が遺したもの』にまとめた。
本連載では、ヤマトグループとは関係のない外部の経営者たちが、小倉昌男氏の生き様や経営哲学にどのような影響を受けてきたのかを解き明かす。『小倉昌男 経営学』の出版から約18年。小倉氏の思いは、どのように「社外」の経営者たちに伝わり、そして日本の経済界を変えてきたのだろうか――。
リブセンスを率いる村上太一社長は、起業して間もない時期に『小倉昌男 経営学』と出合い感銘を受ける。「数々のセミナー、講演を聞いた結果、私が得たもの――それは、経営とは自分の頭で考えるもの、その考えるという姿勢が大切であるということだった」。小倉氏のこの言葉に衝撃を受け、村上社長本人も考え続ける経営者へ変わっていった。

1986年東京都生まれ。高校時代に起業準備をはじめて、2005年、早稲田大学政治経済学部入学して、大学1年生の時にリブセンスを設立、社長に就任した。2011年12月には、25歳1カ月で東証マザーズ上場。2012年10月には、25歳11カ月で東証一部に市場変更。ともに史上最年少記録を更新(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)
東日本大震災後の寄付で感じた“ヤマトらしさ”
村上社長は『小倉昌男 経営学』の「経営とは自分の頭で考えるもの、その考えるという姿勢が大切である」という言葉に衝撃を受けたとおっしゃいました(詳細は前編「経営の本質は経営者が自分で考え抜くこと」)。
村上社長(以下、村上):「自分の頭で考えろ」。これは小倉さんが長年経営者として経験を積んだ上で出てきた本質なのではないかと感じています。色々な企業の取り組みを参考にして、学び続けることはもちろん大前提で必要です。けれど、その上で経営者は自分で考えること。それが大事だと常に意識しています。
日頃、意思決定に迷うことはあります。ですから色んな人の意見も聞く。けれど最後は、誰が何を言っていたという言葉に頼って思考停止せず、「うちの会社に本当に合うのか」などと多様な視点から考え尽くして決断を下す。それが大事なんだと感じています。
『ヤマト正伝』では小倉さんの後を継いだ経営者たちの取り組みをまとめていますが、ここで印象に残ったポイントはありますか。
村上:最も印象的だったのは、東日本大震災の後でヤマトグループが実施した「宅急便1個につき10円の寄付」ですね。寄付の総額は142億円、年間純利益の4割に当たる金額を寄付したと知って、改めてヤマトグループのすごさを実感しました。同じ経営者として簡単に下せる決断でないことは理解できます。同時に、そんな決断をできたのは、とても“ヤマトっぽいな”と思いました。
東日本大震災の直後、被災地のセースルドライバーたちは本社の指示を仰ぐ前から自分たちで考え、荷物を運び始めたそうです。
村上:当社もそうなりたいなと思っています。人々の生活にとっての「当たり前」を発明しよう、と。誰もが当たり前のように使うサービスってそんなにありませんよね。そして当たり前のインフラだからこそ、それを担う責任もあって、働いている人にはプライドがある。社会的責任を感じながら働く姿勢は本当に素晴らしいと感じています。
インフラを担う存在であるが故に、この春にはセースルドライバーの労働負荷が高まったことなどで社会的な問題にもなりました。
村上:けれどこの問題を受けて、未払いの残業代を過去2年分に遡って支払ったと聞いています。こういった姿勢もヤマトらしいと感じます。同時にきっと、ヤマトグループでは問題を解消するために、自動化やロボット化についても考え、粛々と取り組んでいるのではないでしょうか。
当社の目指す方向が彼らと全く同じかというと違うと思います。それでも真似したいなと感じています。

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