ある一文を読んで目が覚めた

どのような経緯で『小倉昌男 経営学』を知ったのでしょう。

村上:誰かから紹介されたのだと思います。確か「起業家の本で何がいいですか」と聞いて、「小倉さんが一番だよね」と教えてもらったように記憶しています。

 ただ私がこの本を初めて読んだ2009年頃は、もう宅急便は日本人の生活に浸透していました。ですから宅急便やそれを生み出したヤマト運輸が、かつては極めてイノベーティブな存在だったということは、あまり知りませんでした。

 けれど本を読んで、宅急便が誕生した経緯や、それ以降に発展してきた歴史を知ってとても感銘を受けました。小口郵便しかなかった時代に宅急便を生み出し、クール便やゴルフ便、スキー便、はたまた時間帯指定など、利用者の目線で利便性を高めていきました。当時としては挑戦的な取り組みだったはずです。

最も印象に残った部分はどこでしょう。

村上:実は私、その文章の位置まで覚えているんですが、好きな一文があるんです。第2章「私の学習時代」のところです。

 ここで小倉さんは、「数々のセミナーや講演を聞いた結果、私が得たもの――それは、経営とは自分の頭で考えるもの、その考えるという姿勢が大切であるということだった」と書かれています。この部分を読んだ時に私は大きな衝撃を受けました。

 経営の本質とは、経営者が自分の頭で考えることしかありません。誰かの経営を真似ていてはダメなんです。はっとしました。

 当時の私は、例えばどこかの会社が新しい休暇を導入したというのを聞いて、うちではどうだろうと参考にしていたりしました。参考にするといえば聞こえはいいですが、思考停止していたのかもしれません。

 けれど小倉さんは、自分の頭で考えて、自分の会社には何が必要かをひたすら考え抜くことが経営の基本だと書いている。他社の取り組みを参考にしていた自分に対しても少し違和感を覚えていたので、この言葉に出合った時、心から納得できました。

 経営で大切なことは、視点の数を増やすことだと思っています。自分が何をしたいのか、今の社員がどのように思っているのかなど、あらゆる判断の中で、思考停止して何かを受け入れるのではなくて、経営者がとにかく考え抜く。それが成長であり、経営なのだと今は思えるようになりました。

 その点、小倉さんの後を継いだ経営者たちの歴史を集めた『ヤマト正伝』は、私には少し物足りませんでした。「小倉イズム」を大切にしているのは理解できるのだけれど、小倉さんの経営の本質は「自分の頭で考え抜く」ことです。その観点で読み込むと、後に続く経営者の方々は、もしかすると少し思考停止してしまったのかもしれません。自分で考え抜くというよりは、「小倉イズムをいかに守るか」と考えているようだったので。