ビデオ通話により実現したバリの兄貴こと丸尾孝俊氏と“ずるゆるマスター”大城太氏による対談の2回目。単身でバリ島に渡り、今や従業員数千名のグループ会社を率いる兄貴。
前回に引き続き、日本企業が今後も成長するためには何が必要なのか、バリにいるからこその視点で探ってもらう。
バリの兄貴
本名:丸尾孝俊。1966年、大阪生まれ。中学校卒業後、看板屋に丁稚奉公。その後、飲食業、トラック運転手などからの独立を経てバリ島へ渡り現在は関連数十社へと成長しバリに住まいアジア中心に数百ヘクタールの不動産と数十件の自宅を所有。現地の孤児院や病院などに寄付を欠かさぬ人柄は、本人がモデルとなった映画「神様はバリにいる」(原案書籍:出稼げば大富豪)で存分に描かれている。
若い人に、どんどん修行させてどんどん仕事を任せるという話が出てきました。ただ、任せるというのが、日本人はなかなか苦手で、何でも自分でやろうとする。人に任せるというのはどこがポイントなのでしょう
兄貴:やっぱり基本的に自分たちが育てた者じゃないから、その人は。だから任せるのが苦手になってしまったんや。より若いうちから雇用して、自分たちが育てた絶対の自信作が営業してたりモノづくりしてたらドヤ、絶対に任せられるように誰しもなるはずや。
ところが今日、家庭でも、自分の息子に仕事を任せられるかどうか深刻に悩んどる父親も沢山おるんや。
何故かというと希薄なんや。人と人のつながりが薄い結果こうなってるねん。
大城:関係が薄いから任せられないという事ですか。
兄貴:自分たちが手塩にかけ育てた人には任せられるはず! 一流大学を出たからと言って任せやすいかというと、そうではないと言う事や。
大城:その時点で、大半の日本企業は間違ってますね。
兄貴:間違いや。時間が無いとの思い込みから。
そんでね、例えば就職のあり方。これも決定的に間違っとる。勉強ができるからといって使えるとは限らん。そもそも論や。
じゃー仕事が出来る者をどう雇用するか、こんな難しいことないよな。そもそも仕事した事ないし。それやったら、インターン制度を設けることを、全国企業はとっととやるべき。商業高等学校とかからも、どんどんインターンで体験してもらうんや。
ほんでもって君は学校に戻るかね、卒業せずこのまま就職したらどうかな、みたいに一刻も早く就職出来たら親も安心やと思う。
仕事した事のない者が立派な社会人として育つのに、1年、2年、3年とかかるはずやし、国も企業もそこ待ってられないと心配しています。
あと、就職の際の面接にもいい方法がある。仲のいい友達1人を連れてきなさい。ほんで、本人には何も聞かず、連れてきた友人にアピール、紹介してもらい、彼に質問を行う。
大城:それは新しいですね。華僑もどのような人と付き合っているのかは、ものすごく重視します
兄貴:1人の友達も連れてこれないのなら就職はない。友達からの友情、信頼、信用がない者を会社は雇用してはいけません。
大城:確かに友達からの信用がないのに、お客さんや先輩社員から信用されるとは考えにくいですね。
本業はリース業、自分はお願いしているだけ
今、兄貴もいろいろな仕事を任せている人がいると思います。そういった方は、どのような観点から採用しているのでしょうか。
兄貴:実は違うんです。みんな勘違いしているんです。自分は関連会社社長はじめ社員さんにお願いをしてるだけ。所有する土地、建物、工場などを使ってもらって、何とか立派に育ててほしいというお願いをしているだけです。
自分が採用指針など決めているわけではなく、社長が牽引してきた会社を応援し、工場や社屋、あるいは重機とかを借りてもらってきました。そもそも、ずっと借り続けてくれることを期待して土地などを買い取ります。リース業であることが前提です。
大城:そうなると兄貴の中では、マネジメントをしている感覚はないんですね。
兄貴:全然ありません。マネジメントしている人間は、現場に出ている人間なので、私は一度も、マネジメントはしていません。お願いの鉄人です。
大城:それが究極のマネジメントと言っても良いでしょうか?
兄貴:マネジメントで無くサービスを受けるお客さん、ゲストみたいなものです。もしも自分が事業的に切り盛りする社長なら、お客さんや社員に同じくお願いをして回る。社長ですし、得意先や現場にも社員さんを連れて回るでしょう。
大城:実際の現場を見せるということでしょうか?
兄貴:結果、人も社員も見よう見まねでしか育ちません。言うて聞かせて育った者を見たことない。長いこと見せて過ごした奴なら全部できるようになる。
基本はお客さんを大事にする、いい製品を作る
大城太1975年2月8日生まれ。大学卒業後、外資系金融機関、医療機器メーカーで営業スキルを磨き、起業を志す。起業にあたり、華僑社会では知らない者はいないと言われる大物華僑に師事。厳しい修行を積みながら、日本人唯一の弟子として「門外不出」の成功術を伝授される。独立後、医療機器販売会社を設立。アルバイトと 2人で初年度年商 1億円を達成。現在は医療機器メーカーをはじめアジアでビジネスを展開する6社の代表および医療法人理事を務める傍ら、ビジネス投資、不動産投資なども手掛ける。2016年 3月より日経ビジネスオンラインにて『
華僑直伝ずるゆる処世術』を連載。
大城:日本ではマネジメント理論の本などがたくさん出ていて売れています。ただそれを読んで、マネジメントをしようとしているのですが、結局できなくて、悩んじゃって、みたいな人が多くいます。最近では、そんなマネジメントが嫌で、出世もしたくないみたいな人も増えているんです。
兄貴:そもそも、お客さんを見つけ出し大切にするだけの事です。もしくはいい製品を生み出すこと。
どっちかといったら、マネジメントというのは、お客さんが山盛りいたら、お願いすればいい。その方がより潤いをもたらす。
全部、自分のところでやらないかんというのが間違いで、いろんなところにお願いをすればいい。分担をすること。それが日本のやり方と思ってきました。
もともと業者さん、下請けさん、何十社という下請けさんが力合わせて、1つの製品をこさえてきた。合理主義流はそうじゃない。あれ買っただけ。これ安く買えたから良し。安くても高くても長年のお付き合いを大切にした取り組みでなければダメ。
大城:華僑の商売の鉄則にも、1人でビジネスをするな、というのがあるのですが、昔の日本人と似ていますね。
そういった日本が積み上げてきたものを信用しなくてはいけないのですね。
兄貴:自分たちで育てたもの。それを信頼できないような会社は寂れます。自分たちが育てた人、それが課長さんだったりしたら、その人に任せてみることや。それが明日の子会社の社長になられる方かもです。小さい事から任せてこなかった人に、社長を任すとつぶれる。
部下を家に泊めてみる
とはいえ、周りは自分が育てた人間ばかりではありません。
兄貴:もちろん。ただ自分たちで育てないとダメ。急に流星のごとく現れて優秀な人間だから任せようなんて、そんなのはダメ。心情を大切に進めるべきです。
ちゃんときちんと見せようかと思ったら、上司が部下を家に泊めれるところから始めないとダメです。昔はそうやった。何にもないけどな。飯だけはある。一升瓶だけあんねんと。だから来いやという上司がたくさんおった。
僕はそういうね、親しみを持って接する。どんなことでも相談できる。それが上司だと思っています。決して近づけないのが上司じゃない。
子は親を見て育ちます。新入社員も先輩を見て育ちます。ここだけは間違いない。ということは出来るだけ長く、見せてやればいい。
そこは公私混同ではないですけど、プライベートも何もすべて見せるということですね。
バリにいる兄貴と日本にいる大城氏とでビデオ通話により対談を実現した
兄貴:先輩、先輩ってくるやつがいれば、そうしてみればいい。
でもね結局ね、成長率が著しく違う。間違いない。信頼のおける人としての頭角も全然違う。僕はそう思ってる。
大城:華僑の信頼関係の構築に家族ぐるみの付き合いはマストですね。配偶者と一緒に食事したり、恋人と一緒に遊んだりとかですね。
これも人付き合いの話になるのですが、進出したい国があれば、そこの人に任せろというお話がありました。なかなか外国の方だと分かり合えない部分があるのではないかと思います。そこはどうやって乗り越えたらいいでしょうか。
兄貴:招聘してください。高校のときから招聘して援助してください。日本に留学させんのや。その学校とタイアップして、しょっちゅう様子を見る優しいおじさんでいなさい。
そしてその見守り育んできた若者を就職させなさい。そして地元に返しなさい。営業職として。僕はそう思います。
外国人の商談相手を見極めるには?
日本ではグローバル市場を見据えよ、という話が盛んに言われます。海外で成功した兄貴として、何かポイントがあれば教えてください。
兄貴:あのね、ようするにね、探究心。郷に入れば郷に従え。常に相手の立場にたったものの考え方、ものの進め方。ここは絶対です。
ということは、お金以外は全部譲る。それも譲れない、これも譲れない、お金も譲れない、それが日本企業です。そんなんじゃうまくやっていけない。
どっちかというたら1カ月先に必要なことなら、3カ月前から進行したらええ。そしたら納期だけは譲れる。譲れたことにできる。そういう調子で先手必勝やね。先回り先回りすることを得意としたらええ。それが外国相手。
では、グローバルのビジネスでは、何をもって相手を信頼できると思ったらよいでしょうか。
兄貴:親、家族、兄弟、友人と会います。本人を知るうえで最も肝心だと思います。そこで会わせたくないとか、何かの理由で会えないとなると、ここは難しいところです。家族や周囲の人とも親しくなるべき。
仕事の話をしている人と、家族に会わせろというのも、なかなかハードルが高いと思うのですが
兄貴:いやね。簡単です。家庭訪問をする担当係長を作ればいい。そこはやった方がいいです。
ここは自分だけの問題かそうでないか。家族まで巻き込む問題かそうでないか。友人知人まで巻き込む問題かそうでないか。それが人として、人生の中で大きいものと考えています。
例えばね、こういうふうな考え方ができます。親友だという人がいます。友達だという人がいます。でも、奥さんの顔を見たことがあるか、せがれの顔を見たことがあるか、じいちゃんの顔を見たことがあるか、というと、一気に減ってしまうでしょう。
これは日本の伝統と文化です。昔はみんな知っていたはず。
いたわりのある会社を構築する
大城:古きよき日本を取り戻せということですね。華僑の強さもそのあたりにあるのかもしれません。だいたい、家族のことや付き合っている人のことを上役は把握しています。
兄貴:それを企業体とかマネジメントとか、いろんな分野にどんどん複合させていく、取り入れていく。取り戻す事が出来たら成功率は高まると思います。
なぜならば、例えば、僕もサラリーマンでした。一緒に働いていました。ほんで奥さんが病気になりました。でも、そこへのいたわりがありません。仕事取ってこいばかり言います。絶対にこんな会社は辞めてしまう。
でも、家族を知っていたら、そこはいたわれる。課長が部長が言ってくれる。お前、今日は早く帰ったれ。そんなんが日本です。
若い人間が就職する会社を選ぶときには、そういった面を重視した方がいいんですね。
兄貴:それを重視できていない企業は、どんどん滅びていきます。
大城:ただ、兄貴のいうことが分かった方がいて、若い人間を家に泊めようとしても、今の方って公私を分けようとします。飲みに行こうとしても、それって残業代がつきますかと、言うぐらい。
兄貴:だから僕がいった採用試験をしていないからです。そもそもです。ようするに、人に信頼されるような人なら、そんなことは口が裂けても言いません。
僕なら上司が誘ってくれたら、いいんすかと。それってひょっとして飲めるやつですか。お酒もついてきちゃったりするんですか。どんどんうきうきするよ。
でもね。付き合いを薄めてきたのは、上司です。面倒みてこなかった結果でもある。
(明日公開の第3回に続きます)
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