前回に引き続き、2000人の大富豪と面識のある成幸研究家・トニー野中氏と、人生に成功する条件を探っていく。今回の話題は仕事中心。大富豪は好きな仕事しかしないというが、我々にもそんなことは可能なのか? そして大富豪流の人の付き合い方とは?
(前回の記事はこちら)
トニー野中氏(右)と大城太氏(写真=深澤明、以下同)
野中さんは、2000人の大富豪とお会いしたうえで、彼らは好きな仕事しかしていないとお話しされてます。それは理想ですが、生活のために嫌な仕事を辞められないという人が大多数かと思います。
野中:ただね、好きでない仕事であれば、終身雇用の時代でもないし、辞めちゃっていいと思いますよ。やっぱり好きな仕事をする。
なぜかと言えば、人間は好きな仕事こそ、得意な仕事でもあるからです。仕事は、自分の提供したものが、価値の高いものであるほど報酬も高くなる。また価値があまり高くなくても、長い期間提供できたりする。そういった価値は得意な仕事から生まれます。
また、人生において、重要なものの1つは健康ですが、健康上、最もいけないのはストレス。がんを含めた3大成人病は、その原因の多くがストレスと言われています。好きなことを仕事にしていれば、このストレスも少ないですよね。
例えば、仕事を土日にやらなくてはならない場合もあるでしょう。好きなことであればそれも乗り越えられる。好きな仕事を見つけてほしいですね。
子供などがいるとそれなりに学費などが掛かりますし、今の収入をすぐに放棄できない方も多くいると思います。そんな状況でも、好きな仕事を見つけたほうがいいのでしょうか?
野中:すぐに業界をがらっと変えるのは、難しいかもしれませんが、同じ業界でもいろいろな仕事があると思いますし、また会社の中でもいろいろな仕事、総務や人事から営業、開発、生産などがあります。その中で好きな仕事ができるように、異動願いを出してもいいかもしれません。
営業が好きじゃない人間に、客のところに行って来いと言っても、ストレスになるばかり。逆に、人としゃべるのが好きならば、営業には向いているかもしれません。ただ、多くの人は、自分のことをちゃんと見ていないんじゃないですか。自分が何が好きなのか、何が得意で、何に向いているのか。そういうのを見ていないんじゃないですかね。
大事なのは、自分を客観的に見ることでしょうか?
トニー野中企業経営者、成幸研究家
1962年生まれ。石川島播磨重工(現IHI)にて、ジェットエンジンの設計開発に携わった後、5カ国共同開発エンジンの国家プロジェクト・メンバーとして英ロールス・ロイスに駐在。その後、米国のゴルフ用品メーカーにて、タイガーウッズはじめ多くの世界トッププロのクラブ開発で実績を上げ、ロスチャイルドをはじめとする、多数の大富豪やセレブリティーと懇意になる。現在、IT企業や投資会社など5社を経営する傍ら、たんなる「成功」が目的ではなく、「お金・時間・健康・人脈」の全てを満たされることを人生の目的とする成幸研究家として世界の大富豪たちの習慣や考え方を体系化している。
著書の「
世界の大富豪2000人に学ぶ」シリーズは10冊、累計100万部を突破(電子書籍を含む)
野中:そこは大事ですよね。私が経営している企業の1つにIT関連企業がありますが、Webサイトの制作業務などを請け負っていて、ほとんどのクライアントは一部上場企業又は世界的なブランド企業です。その会社の仕事の進め方が変わっています。例えば新しい仕事を受注したとします。普通は受注した企業の業種に合わせて、それを得意な人に仕事を任せたりするじゃないですか。スポーツメーカーのWebサイトなら、スポーツが好きな人間に担当させる。専門用語とか出てきたりするので、そのほうが効率がいい。
でも、私の会社では進め方がちょっと違うんです。まず、最初にメンバーに聞くのです。「何が好きか」と。例えば、ウエディング関係のことが好きだとなれば、じゃあウエディング関係のサイトを構築しよう、となって、ウエディング関係の会社を集中的に営業しにいく。だから、ある仕事に合わせて人を当てがうのではなくて、人があって、その人の好きな仕事を取りに行く。そのような形で進めています。
あまり興味がない分野で仕事をしても、いいものを提供できないということですね。
野中:やっぱり好きな人にはかなわないでしょう。好きな人からは自然と知恵が出てきますから。
華僑は仕事をえり好みしない
大城さんは、好きな仕事に関して、どのようにお考えですか。
大城:中国が、多くの国と違うのは、内戦が当たり前だったということ。その結果、人を信用しないということが前提にあります。だからものごとを進めるにしても、制約があるのが当たり前で、逆に制約がないことには慣れていない。
嫌いな仕事にはいろいろ制約があるのだと思いますが、そこは当たり前。要は好き嫌いでは仕事を選ばない。ここが、欧米の成功者とちょっと違うところではないでしょうか。
かと言って、嫌な仕事をするにも、日本人みたいな悲壮感はないですね。なぜかと考えると、日本人と違うのは、いずれ自分がトップになるという教育を全員が受けている。農村の子でもトップに立てという教育を受けています。会社の先輩、同僚から何かを盗んでやれと思っているので、そこは嫌な仕事をしていてもストレスのかかり方が違うのだと思います。
華僑の場合は、成功するうえで好きな仕事にはこだわらないということですね。
大城:そうですね。先ほども言いましたが、制約があるのが当たり前。どちらかというと、制約があるから楽しめるといった考えですね。私の華僑のボスがよく言っていたのが、サッカーをするのに手で触われたらおもしろいか? サッカーは手で触われないという制約があるからおもしろいんだ。ビジネスも同じだと。制約があるからおもしろい。
仕事の締め切りだってそう。3日しかないと言われれば、厳しいかもしれない。でも、締め切りまで3年あると言われたらあまり考えない。制限があるからアイデアも考えるし、仕事が楽しくなる。同じように嫌な上司がいるから楽しい。働かない部下がいるから楽しい。そう華僑は考えるのです。
日本人は仕事で完成系を求めるじゃないですか。一方で、中国人はメンツなんですね。だから、人間性で完成系を目指すんです。仕事で自分を磨いていくという感覚があるんです。
今のお話の中で、上司や部下の話が出てきました。もちろんソリが合わない人間も会社にはいると思います。それを制約と考えて楽しむという手もあるかと思いますが、それ以外に、うまくやる方法はあるでしょうか?
他人の嫌なところは見ない
野中:当然、ソリが合わない人たちはいると思います。私は、嫌なものを嫌と思わないようにしてます。上司でも部下でも嫌なところを見ないでいいところを見てやる。
もちろん、上司が嫌で、それが原因で会社を辞めるという人もいるかもしれません。でもそういう場合って、次の会社に行っても、大体同じことが起きるんですよね。またもや嫌な上司が原因で辞めたくなってくる。逃げているとダメなんですよ。
給料が安いことに不満で会社を辞めると、やっぱり次の会社でも同じような不満を持つようになる。逃げているといつまでたってもダメです。
大富豪の方も、やはりソリが合う人、合わない人があると思います。彼らはどのように対処しているのでしょうか?
野中:まず、「鏡の法則」ということを聞いたことがあるかもしれませんが、そもそも大富豪の方々は、とてもエネルギーの高い方たちが多いので、ソリが合わないような人は寄ってこないのです。だからあまり嫌な付き合いをすることがないのです。
それって大富豪の方だけの話ではありません。相手は自分を映す鏡です。相手のことを嫌だな、と思ったら、きっと自分もそのような要素を持っているんだなと考えたほうがいいです。
相手がどこかの部署に行ってくれないかなとか、この上司変わらないかなとか、思っているのなら、まず自分が変わることですね。そうすれば、その人との関係もきっと変わってくるはずです。
そこで重要なのは、やはりいいところを見るということですね。大城さんはどんな対処方法があるでしょう?
大城太 1975年2月8日生まれ。大学卒業後、外資系金融機関、医療機器メーカーで営業スキルを磨き、起業を志す。起業にあたり、華僑社会では知らない者はいないと言われる大物華僑に師事。厳しい修行を積みながら、日本人唯一の弟子として「門外不出」の成功術を伝授される。独立後、医療機器販売会社を設立。アルバイトと 2人で初年度年商 1億円を達成。現在は医療機器メーカーをはじめアジアでビジネスを展開する6社の代表および医療法人理事を務める傍ら、ビジネス投資、不動産投資なども手掛ける。2016年 3月より日経ビジネスオンラインにて『
華僑直伝ずるゆる処世術』を連載。
大城:全否定と部分否定があると思います。何か注意されると、日本人の場合は、人格までが否定されたと勘違いされる方がいる。本当はわずかな部分を否定されたに過ぎないのに、なぜか全否定されたように思う。
仕事は自分の人生の1つです。その中のさらに1つを注意、ひょっとすると罵詈雑言を浴びたのかもしれませんが、小さな部分を注意されたのにすべてを否定されたと思う。華僑と喋っていると、ここが日本人は違うよね、という話になります。
これとは逆に、部分的に褒めたのだけれども、勘違いすることもある。例えば、これは遊びに行ったときの話ですが、女性から「いいスーツ着てますね」と言われたら、「俺はもててるんだ」と勘違いする。これも日本人。
日本人は大げさにとりすぎるというか、スルースキルがないというか。そこが職場における人間関係でも大きいと思います。
その業務に関して注意を受けた、それだけ。その上司は、あなたが嫌いで注意したのではない。一般的に、嫌いであれば無視するんです。そうでないということは、全否定ではない。そういったことを理解すれば、人間関係にも違いが生まれてくるのではないでしょうか。
やっぱり組織はコミュニケーション
日経ビジネスオンラインの読者には経営者の方やリーダー層の方、いわゆる組織を統括する立場の方が多くいらっしゃいます。そういった組織をうまく回すために必要なことは何でしょうか?
野中:会社を率いるのにも、プロジェクトを回すのにも共通しますが、そこで大事なことは三つあると思います。
野中:一つは貢献意欲。自分の力を組織の中で役立てようという貢献意欲は必要です。それを引き出すには、給与を引き上げるとか、あるいは会社が上場したらストックオプションがもらえるとか、代表的なものでいえば、そのようなものが挙げられます。
二つ目は共通目標。プロジェクトにしても会社にしても、向いているゴール、ベクトルは同じにしないといけません。そうでないと力が分散してしまう。
三つ目はコミュニケーション。失敗するプロジェクトも会社も、このコミュニケーションで失敗することがほとんどだと思われるぐらい、ここは重要です。
では、コミュニケーションを良くするために、大富豪の方が実践されていることとは何なのでしょうか?
野中:メールや電話ではなく、直接会うということはされますよね。それはサラリーマンの方も実践できると思います。直接会って、例えば食事をしながら話をする。そういうことを大切にしています。
分かりやすい例ですと、2000年ぐらいからITバブルといって、IT系の会社が多く上場しました。ただ、中にはダメになってしまった会社もあった。
なぜかと考えたときに、さっきの三つのことでいえば、会社を大きくさせようという共通目標はある。できれば会社を上場させようとか。そして上場させたら、ストックオプションなども考えられるので、貢献意欲も満たされる。
でも最後のコミュニケーションのところがおろそかになってしまう。特にIT系の会社だとツールを使うのに慣れている分、例えばチャットなどで物事を進めてしまう。極端な話、隣に座っているのに、メールで話をする。それを繰り返していると、やっぱり意思疎通が難しくなってしまいがちです。
メールだけだと、100%伝わらないとか、誤解が生じるとか、そのようなデメリットがあるということですね。
野中:例えばメールで、これしなさい、とか、あれしなさい、とか書いてあると、この人、ひょっとして怒っているんじゃないかな、とも取られてしまう。でも本人はそんなつもりではない。ただ、一方がそう受け取ると、次に顔を合わせたときに、何となく気まずい。
会って話をすれば、そんな誤解が生じない。だからメールのコミュニケーションって難しいですよね。会って、目と目を見て、表情を読み取りながら話をするというのがコミュニケーションでは重要になってくると思います。
怒るなら、先に褒める
コミュニケーションという点で、何かほかに気を付けている点はありますか?
野中:怒るときにはまず先に褒めるようにしています。最初に褒めて、そのあとにここはダメだったよねと指摘する。最初にダメだったことを指摘すると、人間ってそのあとの言葉が耳に入ってこないんですよ、怒った後に、次は頑張ろうね、といっても、大体耳には入ってこない。
まずは心を開かせるところから始めないと。だから褒めることから始めて、心を開かせて耳を傾ける状態にしたところで怒る。
無理なお願いをしたい場合も、同じですか?
野中:まずは、いい話ですよね。褒めるとか、得になる情報を聞かせるとか。まー、営業の手法と同じですよね。いい情報を入れたあとで、これ買ってくださいとか(笑)。
大城さんもコミュニケーションの観点から、何かアドバイスがあれば教えてください。
大城:今、インターネット文化の影響からか、従来のピラミッド型組織の常識が通用しなくなってきています。例えば、上場会社なんかでも、新入社員が社長に直接メールが送れるとか、並列型になっているのだと思います。その並列型の組織をうまく回していくべきだと思います。
例えば、細かいところでも上から直接見せてあげる。例えば社長自らが、そこは「了解いたしました」という言葉はなくて、「承知いたしました」という言葉を使うんだよ、とか言葉遣いの点も指摘する。私はそういうことから指導しています。
怒る、怒らないの話でいえば、怒るということは、あなたの弱点を見せているということだよ、ということを言っています。悲しむにしても、もしこれで悲しむのであれば、そこが弱点だから、部下もお客さんもそこをついてくるよと。だから、常にポーカーフェースでいるか、微笑しておけと、そう言っています。
基本的に華僑はあまり怒らない。日本人って、すぐに怒るんですよ。それって恐がっている証拠です。だから、外国の人から見たら、日本人は弱点だらけだと思います。怒るというのは、動物を見ていても分かるんですが、恐いから怒るので、弱点なんです。だから、成功者は怒らない。
野中:そうですよね。成功者は怒らない。何でかなと考えたんですけど、日本人の教育って、減点法じゃないですか。小さいときから失敗するなと言われてきた。学校の入試試験でも点数が到達しなかったらダメです。
何でそうなっているのかというと、日本だけじゃなく、アジアもそうなんですが、組織というか団体で動くということが多いじゃないですか。そこで、1つでも不良の歯車が入ってしまうと、全体に影響が及んでしまいますよね。そうならないように、失敗しないようにと教育されている人が多いから、失敗することに対して、ものすごくネガティブになる。上司も学校の先生も親も失敗に対しては、怒るようになる。
失敗はウエルカム
大富豪の部下ももちろん失敗すると思うのですが、それに対してあまり怒らないのでしょうか。
野中:加点法という考え方をします。減点法ではないです。失敗は誰でもしますよね。失敗と成功がセットになっているように、失敗は誰でもします。だから失敗することに対して目くじらをたてたりしない。もちろん、同じ失敗を繰り返すことはダメですが。
失敗談なんかもよくしますか?
野中:もちろん失敗談もしますよ。むしろ失敗談しかしない人もいる。といっても、その人の今を見れば、失敗の後に成功していることは、当然分かるのです。
例えば、自己破産2回したんだよと、失敗談を語っていても、今が大富豪なんですから、その失敗が経験となって、そこから成功したのは明らかです。ただ、自慢話はあまりしません。
(明日公開の第3回に続きます)
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