その「常識」は本当に必要? 「あたりまえ」から踏み出して新しい発想を生む視点や思考の組み立て方、その実践方法について、スタートアップを支援する投資家、アクセラレーターとして活躍する孫泰蔵さんに聞いた。

(聞き手:日経BP社出版局編集第一部長・中川ヒロミ)

初回のテーマは、「オフィスと社員はもう要らない」。いきなり衝撃的ですが……。

孫泰蔵氏(以下、孫):大げさでなく、その通りだと考えています。この取材を受けている今日は2018年7月で、場所は僕が5年前に設立した会社、Mistletoe(ミスルトウ)が3年前に開設したオフィスですが、実は今月末にここのオフィスを完全閉鎖することを決めました。

ええ! Mistletoeのオフィスといえば、孫さんが支援するスタートアップ企業が集まる最先端のコワーキングスペースとしても知られていますが。広さもかなりありますよね。

:400坪ありますが、サッパリ消滅します。決めたのは今年の4月頃。ちょうど更新の時期で、家主から「更新しますよね?」という問い合わせが来た時に、「うーん、やめますか」と(笑)。相手も「え?」って驚いてましたが、社内であらためて話し合って、「やっぱりやめよう」ということになったんです。

皆さん、すぐに納得したんでしょうか?

:いえ、かなり議論しました。もともと環境整備について考える定例会で度々上がっていたテーマではあったんですね。事業の流れとしてはむしろ拡大方向にあるのに、それに逆行する形でオフィスをなくすことへの抵抗は少なからずありました。現時点で200人くらいが出入りしているオフィスですしね。

孫さんが「オフィスは不要」と決定できた理由を教えてください。

:ゼロベースで問いを立てていくと、自然とそう結論づいたというだけです。まず、そもそもオフィスとは何か? と考えてみました。広いフロアに机と椅子が整然と並んで、ミーティングスペースがあって、食堂や休憩室がある。多少の違いはあれど、まぁ、それが基本形ですよね。つまり、オフィスの機能とは「仕事をする場所」でした。

 でも、ホワイトカラーの仕事に関して言えば、今や「仕事をする場所」は自宅やカフェ、どこでも可能になってきているわけです。会議もオンライン化が加速的に進んでいます。「そうは言っても、リアルなコミュニケーションには勝てないでしょ?」と疑う人は多いかもしれませんが、技術面の現実的な予測として、5年後にはリモートワークのストレスはほぼゼロになります。実際、目の網膜に直接映像を投影する技術の開発が進んでいて、360度の視界に映像の合成投影ができる環境はいずれ実現します。人間の目は5Kを超える映像は現実と区別できないと言われているので、「目の前で商談していると信じ切っていた相手が、実はジャカルタにいた」なんてことがざらになるでしょう。