唯一見つかったオフィスの重要な機能

使い込んじゃった、みたいな例は出ないんですか?

:唯一あったのは、同じ製品をダブル発注しちゃったというミス。この時も「買いました」「え、俺も買っちゃった! アイヤー」みたいなやりとりがあって。すると面白いのが、「じゃあ、余った1個をどう活用する?」というアイディアが共有されていくんです。こういった日常的な問題解決はオンライン上で完結されているとなると、ますます「会議室は要らないよね」となる。

 じゃあ、オフィスって他に何があったっけ? と考えていくと「食堂かな」と。でも、食堂ってあるから皆そこで食べているだけで、オフィスにある必然性は見つからない。「やっぱりオフィス、要らないんだ」と終わりかけたんですが、なんかモヤモヤするわけです。僕も含めて。何か見えていない“オフィスの重要な機能”があるのかもしれない、ともう一度じっくり考えてみたら、あったんです、1個だけ。その1個だけを表現した「新しいオフィス」を作ることにしました。

その機能とは?

:ミートアップ(出会いの場)です。つまり、皆、偶然の出会いから得られる気づきや刺激、交流を求めているんです。会議というのは議題と目的を決めて行うから、「いつ、誰と」という計画を立てることが可能で、オンラインに向いている。ミートアップは偶然性を重視するから、物理的に人と人が出会える場が重要。しかも、本当に人が集まるには、場の魅力を高めることが必須です。時間さえあれば行きたくなるような場所。だから、本気で面白い場づくりを演出しなければならない。

 例えば、「今日は京都から食材を集めてとっておきの朝粥を提供しますよ」とか「シルク・ド・ソレイユのアクターが来てくれます」とか、あるいは「日中に休息するための極上の寝具を用意しました」とか。人間の本能に訴えるユニークな企画が満載の場所。そこで新たに必要になってくるのは、「労働環境デザイナー」です。備品の管理人ではなく、企画、デザインができる人。

オフィスというよりサロンに近いですね。

:一流ホテルのラウンジ以上の居心地と知的好奇心を満たせる場づくりを、これからやっていこうと思っています。しかも、1カ所ではなく、都内に何カ所も点在させる予定です。

 さらに言うと、「社員」という雇用の仕方もなくしたいと思っています。会社と個人の関係を雇用ではなく対等な契約関係で成立させたいんです。個人が得意でやりたいプロジェクトと、会社が求める役割が一致したら、都度契約関係を結んでいく。複数の会社で仕事をするポートフォリオワーカーという働き方をどんどん取り入れていきたいと思っています。

「社員を管理しないと不安」「会社から管理されないと不安」と考える人がほとんどではないでしょうか。

:まさに思考停止が生む不安だと思います。ここでまず立てたいのは、「なんでサボっちゃダメなの?」という問いです。「サボっちゃダメに決まってるだろう!」と怒っている上司も、実はパソコンでゴルフ場の空き検索とかしていないですか? ぶっちゃけ、匿名で答えたら、皆、本音は「サボりたい」だと思うんです。

 でも、本当に会社の業績がヤバい時には馬力が出るものだし、人によってパフォーマンスの出しどころや持ち味は違うもの。それを一律に管理したところで生産性が劇的に上がるわけでもないです。実際、メールの中身までチェックされるほどガチガチに管理されている金融機関や官公庁の人たちの生産性ってものすごく高いですか?「管理するほど人は真面目に働く」という考えが本当にそうなのか。これもイチから問い直すことが重要だと思っています。

なるほど。常に、「思考停止になっていないか?」と見直す姿勢でいようと。

:そうです。僕も指摘されることがありますよ。「泰蔵さん、思考停止になっていますよ」と。

孫さんに対して、社員の方々がそんな進言ができるんですか?

:できますよ。なぜなら、うちの会社は、評価と報酬を完全に切り離しているんです。つまり成績がいいからといって給料が上がるわけではないし、その逆もない。