役員も泣き出す後継者育成塾
社長就任から10年。株式市場では「手代木ロス」のリスクがささやかれる。手代木が社長を辞した後、塩野義が成長を持続できるのかという懸念だ。
だからこそ、手代木は先回りして12年から、後継者育成に力を注いできた。
月1回、社内で開かれている幹部クラスを対象にした社長塾。各回4~5時間に及ぶ授業で、幹部社員らが手代木から与えられた課題を解いていく。テーマは極秘というが、10年、20年先の事業環境を想定したうえで、今とるべき経営戦略を実際に作らせる内容などが含まれているようだ。
「何年、働いているんだ」「そんな甘い考えなら、今すぐここから出ていけ」
手代木に罵詈(ばり)雑言を浴びせられ、あまりの厳しさに泣き出す役員もいる。「社長塾があった日は、明らかに憔悴(しょうすい)している」と手代木の妻も心配するほどの真剣勝負だ。
一介のサラリーマンで終わっていたかもしれない手代木は、経営者として目覚め、今年で創業140年の老舗製薬会社を蘇生させた。それと同じように、人は誰でも、チャンスを与えられ、正しく導かれれば変わる可能性がある。
「やっぱり面白いですよ、人間って」
人の可能性を語る時、手代木はふと優しい表情をのぞかせる。
(内海 真希)
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