「最高益なんてクソくらえ」

 手代木はそんな言葉をぐっとのみ込むかのように、決算説明会では終始、険しい表情を崩さなかった。背筋をぴんと伸ばし、机上で手を組み記者の質問にじっと耳を傾ける。理路整然と語る口調は穏やかだが、視線は常に鋭い。

売上高を半減させた荒療治

 塩野義を業界屈指の高収益企業に変革した経営改革の軌跡は業界内で「手代木マジック」と呼ばれている。改革の始まりは1999年。前社長の塩野元三を支える経営企画部長として、手代木が戦略立案を主導するようになってからだ。

 その変化を数字が示す。99年3月期の営業利益率は6%、ROE(自己資本利益率)は4%と低く、株価は1000円前後で長期低迷が続いていた。それが今や、収益性は当時の5倍以上、ROEは18%となり、株価は6000円前後の水準に高まった。

 だが、その数字以上に、改革の中身はドラスチックだ。

 2000年から04年にかけて、動物薬などの非中核事業を全て売却。その結果、4000億円以上あった連結売上高は半減した。

 04年に医薬研究開発本部長に就くと、抗がん剤の研究が過熱しつつあった製薬業界のトレンドに逆行するかのように、塩野義の抗がん剤の研究チームを解体。研究開発領域を感染症、代謝性疾患、疼痛の3つに絞り込んだ。

退路を断ち、自社の強みに
資源を集中して伸ばさなければ、
死期は早まる一方だ

 今年3月、塩野義はインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」を発売した。海外での開発・販売はスイス・ロシュに託し、年間1000億円以上の売り上げを見込む大型新薬に育て上げる考えだ。ゾフルーザの発売は、手代木が研究開発テーマを絞り込んだ成果である。

 もっとも、こうした「選択と集中」は必ずしも珍しくない。手代木を「手品師」に例えさせるほど、製薬業界の関係者を驚かせたのは、08年に社長に就任してからだ。多くの製薬企業を悩ませてきた、大型新薬の特許切れに伴う著しい減収、いわゆる「パテントクリフ」を解決してみせたのである。

 資金力不足の塩野義は、特許を保有する高コレステロール血症治療薬「クレストール」の開発・製造・販売権を、英アストラゼネカに譲渡していた。その特許が16年以降に順次切れる。14年3月期に年間657億円あったロイヤルティー収入が、19年3月期までにゼロになる計算だった。

 手代木は13年、奇策に出る。アストラゼネカに対して14~16年に得る予定だったロイヤルティーの減額を提案する一方、受取期間を23年まで延長することに成功。クリフ(崖)をなだらかなヒル(丘)に変えた。

 その前年には、抗HIV薬「テビケイ」を共同開発した英ヴィーブヘルスケアとの契約を変更。関連する権利をヴィーブに渡す一方、同社の株式の10%を取得して、ロイヤルティー収入に加えて将来的な配当収入も得られる枠組みを手に入れた。その結果、18年3月期には配当収入だけで200億円以上の利益を稼ぎ出している。

 研究開発に時間を要する製薬業界でも、多くの経営者が目先の利益を優先したがる。だが手代木は短期的な利益を犠牲にしても、中長期的な収益基盤の安定化を図った。

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