メルカリ山田進太郎会長兼CEOの連載「Go Boldの生存戦略」。最終回となるLecture(講義)編「自分だけの山を登る」では、起業家としての発想法や心構えを語ってもらった。「普通」を自認する山田氏がフリマアプリ市場を創造した背景にあるものとは。

(本コラムは日経ビジネス本誌の連載「経営教室『反骨のリーダー』」を一部、再編集して掲載しています)

【山田進太郎会長兼CEOの「Go Bold」の生存戦略】
第1回(Life Story):「僕は『天才』じゃない」~野心的経営者の原点
第2回(Lecture):メルカリ山田CEOに学ぶ~見えない壁を壊す魔法
第3回(Lecture):メルカリ山田CEOに学ぶ~起業はとても割に合う
第4回(Lecture):メルカリ山田CEOに学ぶ~自分だけの山を登る

■お知らせ■

日経ビジネス本誌では、連載「経営教室『反骨のリーダー』」を掲載しています。

山田進太郎[やまだ・しんたろう]

1977年9月、愛知県瀬戸市で生まれる。東海中学校・高等学校を経て96年、早稲田大学教育学部に進学。在学中に楽天で「楽天オークション」の立ち上げなどに携わる。大学卒業後の2001年にウノウを創業。04年には1年間の米国生活を経験、帰国後に「まちつく!」などソーシャルゲームでヒットを生む。10年にウノウを米ジンガに譲渡。12年に退職後、世界一周の旅を経て13年メルカリ創業。17年4月から現職。
私たちにも山田さんのように斬新なアイデアを生み出すことはできますか?

 もちろん可能です。そもそも僕は、何もない状態からいきなりアイデアを生み出せるような、クリエーティブな人間ではありません。自分では、周囲から様々な刺激を受けながらアイデアを具体化していくタイプだと感じています。

 日ごろから食事中や移動中など隙間時間を見つけては、本を読んだりネットの情報に触れたりしながら、「このニュースが話題になった背景は何だろう」「この会社の取り組みは当社にもできるだろうか」などと考えてみるようにしています。加えて、色々な人に会って話をすることでも新たな刺激を受けています。

 さらに、旅行に出かけるなど普段と異なる環境に身を置けば、自分の考えを新たな視点で捉え直すきっかけにもなります。「良いアイデア」とは、こうした、意識して自分に刺激を与え、考えるきっかけをつくるための行動を組み合わせ、そして繰り返していく中で生まれるものではないでしょうか。

 だからこそ、どんなに忙しくても、外部から情報をインプットするための時間は確保したいところです。僕の場合は、30分でもいいから時間を取れたら「今はこの件について検討しよう」と集中して考えるよう心がけています。

 忙し過ぎると、目の前に流れてくる情報をただ処理するだけの“リアクション型”の発想にとらわれやすくなる、と感じるのです。例えばミーティングをしていて、アジェンダ(会議案内)に沿って「この件はA案ですね」「こちらの件はB案でいきましょう」と決めていくうちに、いつのまにか終了時間を迎えている、といったことが以前はよくありました。

 もしかしたら、そのアジェンダには載っていない別のアイデアを考え出して検討すべきかもしれない。議論の前提条件から見直したほうがよいケースもあるはずです。

 でも仕事のスケジュールが立て込んで忙しくしていると、ついリアクション型になってしまう。なるべく予定を詰め込み過ぎないよう、何とか時間をやりくりしています。

“一挙両得”の一手を考え抜く

 何か新しいアイデアを求めている時、僕が大事にしていることがもう一つあります。複数の課題を一気に解決できるシンプルな手がないかどうかを常に考えることです。

 前々回の講義で紹介した「オフィス内の会議室に様々な偉人の名前を付ける」というアイデアも、そうした手を探すうちに生まれたものです。

 例えば会議室の中には、尊敬する元大リーガーの野茂英雄さんの名字を取って「NOMO」と名付けた部屋があります。社員同士で「次はNOMOに集まってください」などと日ごろから口にするうちにいつか、野茂さんがどのような偉業を成し遂げた人物か想像する機会も生まれるはず。会議室に単なる番号を割り振るのと違い、大げさかもしれませんが“一挙両得”のアイデアだと思っています。

 米アップルのスマートフォン「iPhone」も、“シンプルな一手”の好例です。iPhone以前の携帯電話機は、情報を表示する液晶画面と、文字を入力するためのボタン部分が独立して存在していました。

 一方、iPhoneは表面の大部分をタッチパネル式液晶画面とし、文字入力したい時に画面上にキーボードを表示させる方法で、大画面化と文字入力のしやすさを両立しました。そこにはやはり「複数の課題を一気に解決しよう」といった発想法が息づいていると感じています。

自分のアイデアに固執しない

 自分は「優れている」と思っていたアイデアが実際にはイマイチだった、というパターンも、往々にして起こり得ます。

 僕は起業家であると同時にエンジェル投資家でもあるので、他の起業家と接していて「自分のアイデアに固執し過ぎて、現実から目を背けているな」と感じるケースがあります。そんな時、相手には「数字がすべて。そこに正面から向き合わなければ前に進めないよ」と伝えるようにしています。

 起業家が自分のアイデアにこだわる気持ちはよく分かるのです。かつての僕も同じでしたから。

 メルカリの前に立ち上げたウノウでは、2009年に「まちつく!」というモバイルゲームがヒットするまで苦しい時期が続きました。「きっと消費者に受けるはずだ」と期待して開発したサービスが鳴かず飛ばずで、「こんなに優れたアイデアなのに、どうして消費者に理解してもらえないのだろう」という思いを抱えていました。

サービス投入も撤退も素早く判断
●メルカリの国内サービス

 当時の僕は行き詰まるうちにだんだんと「自分が“優れている”と思うアイデアが正解とは限らない。サービスの利用が伸び悩んでいる数字こそが結果のすべてなのだ」と自覚するようになりました。

 自分のアイデアに自信があればあるほど、同じチームの他のメンバーが出したアイデアの良いところが見えなくなってしまう。そうした問題にも気が付くようになりました。

 せっかくチームで知恵を出し合っているのですから、最終的に自分のアイデアが選ばれたとしても、それまでに様々な選択肢について議論を尽くすことが重要です。仮に自分が出したアイデアが失敗したら、すぐにそれを捨てて、他のメンバーのアイデアに切り替えればいいのです。ウノウ時代の様々な失敗が、今のメルカリの糧になっています。