メルカリ山田CEOに学ぶ~見えない壁を壊す魔法
山田進太郎会長兼CEOの「Go Bold」の生存戦略(2)
2018.8.29
(連載 を読む)
メルカリ山田進太郎会長兼CEOの連載「『Go Bold』の生存戦略」。今回からLecture(講義)が始まる。最初の講義は「目に見えない壁を壊す魔法」と題して、全社の行動規範「バリュー」について解説する。山田氏はバリューをとことん実践する組織を作ってきた。社員の一番やりたい仕事を提供するのが経営の正しい姿と喝破する。
(本コラムは日経ビジネス本誌の連載「経営教室『反骨のリーダー』」を一部、再編集して掲載しています)
【山田進太郎会長兼CEOの「Go Bold」の生存戦略】
第1回(Life Story):「僕は『天才』じゃない」~野心的経営者の原点
第2回(Lecture):メルカリ山田CEOに学ぶ~見えない壁を壊す魔法
第3回(Lecture):メルカリ山田CEOに学ぶ~起業はとても割に合う(8/30公開)
第4回(Lecture):メルカリ山田CEOに学ぶ~自分だけの山を登る(8/31公開)
■お知らせ■
日経ビジネス本誌では、連載「経営教室『反骨のリーダー』 」を掲載しています。
山田進太郎[やまだ・しんたろう]
1977年9月、愛知県瀬戸市で生まれる。東海中学校・高等学校を経て96年、早稲田大学教育学部に進学。在学中に楽天で「楽天オークション」の立ち上げなどに携わる。大学卒業後の2001年にウノウを創業。04年には1年間の米国生活を経験、帰国後に「まちつく!」などソーシャルゲームでヒットを生む。10年にウノウを米ジンガに譲渡。12年に退職後、世界一周の旅を経て13年メルカリ創業。17年4月から現職。
創業から約5年。なぜこれほどの短期間
で急成長できたと思いますか?
創業間もない時期に決めた「ミッション」と「バリュー」をぶらさず保ち続けていることが、これまで成長の原動力になってきました。
ミッションとは、メルカリの経営陣と社員が共有する使命です。「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」としています。
この使命を実現するために必要な行動規範がバリュー。具体的には「Go Bold(大胆にやろう)」、「All for One(全ては成功のために)」、「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」の3つあります。このバリューを採用から人事評価、社員の行動やマインドセット、経営陣の意思決定など、あらゆる企業活動を貫く“幹”に据えて、実践を徹底してきました。
僕はよく、バリューは発想の“見えない枠”を取り払う魔法の言葉だと思っています。例えば、バリューの一つである「Go Bold」が、経営の視点でどう役立ってきたかを考えてみましょう。
当社が初めてテレビCMを展開したのはフリマアプリを公開した翌年、2014年のことです。当時はまだ視聴者の大半がメルカリを知らず、売り上げも今に比べれば微々たるものでした。「そんな状況で大金を投じて効果が出なかったらどうするんだ」との心配の声もありました。ただ、僕は機を逃すべきではないと考えてテレビCMを投下しました。その結果、アプリのダウンロード件数が急増したのです。
もちろん、どんなCMを流すかについてはかなりこだわり、失敗のリスクを極力減らしたつもりです。それでもやはり、テレビCMを打つのは大きな“賭け”でした。
18年6月期の連結売上高は前年同期比6割増 ●メルカリの売上高推移
*=18年5月終了
「Go Bold」というバリューに従って、迷ったらいつも、大胆なほうに賭けてきました。それが結果につながってきたからこそ、メルカリは普通の会社に比べて速いスピードで成長できたのだろうと思っています。
我々経営者は、本来は打ち手が無限にあるにもかかわらず、「A案かB案か、どちらかにしよう」と発想しがちです。でも、大胆にやろうという考え方が身についていれば、発想の枠の外にあるC案やD案に目を配ることも可能です。
さらに、もし大胆な意見を尊重する文化が会社に根付いているならば、社内から「E案はどうか」「F案ではダメなのか」などと、次々に意見が出てくるはずです。発想の枠にとらわれることなく一手一手を選ばなければ、会社を成長させることはできないと思っています。
もちろん、「Go Bold」の行動が時に「行き過ぎ」と批判されることもあります。出品などの自由度を高くした結果、盗品や現金の出品という想定外の事態を引き起こしたことは、その一つです。大胆さと社会の要請とのバランスは重視しなければならないと、真摯に受け止めています。
会議室の名前も「大胆」
バリューについて、もう少し詳しく説明しましょう。
3つのバリューの内容を決めたのは、まだ社員が20人足らずだった13年末ごろのことです。当時入社したばかりの小泉(文明・現社長)の発案でした。彼が以前、SNS(交流サイト)運営のミクシィの経営に携わっていた時、バリューが曖昧だったことで経営の軸がぶれてしまったという、強い反省があったからです。ホテルに缶詰になり、アイデアを付箋に書いては捨て、必死で作ったのを覚えています。
バリューを作ることも、その中身も、決して斬新だと思ってはいません。僕や小泉ら創業時のメンバーがもともと持っていた価値観や行動様式ですから。経営者の価値観や行動様式を言語化して、社員に伝わるように行動規範として掲げる企業も珍しくありません。
ただ、メルカリが他社と違うとすれば、それは経営陣と社員がバリューを共有し、実践している点でしょう。そのために、日常的にバリューを意識してもらうよう工夫してきたつもりです。
例えば、本社オフィスの会議室を「BOLD」「PROFESSIONAL」「ALL」「FOR」「ONE」と名付けているのは、そうした工夫の一つです。「次はBOLDで会議です」などと、日常の会話の中で当社のバリューを自然に口にする状況を作り出したわけです。
実は最近、この会議室の名付け方も“大胆にやろう”といって変えました。最近新設した会議室には「EINSTEIN」「DARWIN」といった偉人の名前を付けています。社員が日常の中で彼らの偉業の数々に思いをはせ、イノベーションとは何か、といったことを少し考えてみる。そんなきっかけになればいいと思っています。
急成長を支える組織を作るには、
何が一番大切だと思いますか。
まず基本的な考え方として、誰でも皆、モチベーションを一番感じられる仕事をしたほうがいいと僕は思っています。
こう言うと、多くの人は「そんなの当たり前じゃないか」と思われるかもしれません。でも、当社のような知識産業にとってはまさに死活問題。その人のモチベーションが高いか低いかで、アウトプットの良しあしが大きく変わってくるからです。
誰かが本当に優れたソリューション(解決策)を生み出すことができれば、それだけであっという間に大きな経営課題を乗り越えてしまう。IT(情報技術)の世界では、そういったケースがよくあります。広告でもEC(電子商取引)でも、何か新しいアルゴリズムを自社サービスに導入したことで、顧客へのサービスの最適化が進んで売り上げが激増する、といった事態が普通に起こり得るわけです。
従って、社員に一番やりたい仕事を提供してモチベーションを高め、創造力を引き出せる環境作りができるかどうかが、成長していくうえで非常に重要になってきます。
メルカリはこれまで、非常に短期間で事業が拡大していったため、それを支える組織をどう作るかが大きな課題でした。一般の日本企業のように、普通の新卒採用や中途採用に頼っていては限界があります。スタートアップのスピード感で、プロダクト開発や事業を主体的に牽引していける人材が必要でした。
スタートアップの起業経験者やプロダクト開発経験者を積極的に採用していったのは、そのためです。起業家は、会社経営を続けていれば何事も自由にできるわけですが、それよりもむしろチームで大きなプロダクトを作ることにモチベーションを感じる、という人もいます。実際、メルカリには、そうした元・起業家や元・CTO(最高技術責任者)がたくさん入社しています。
社員のしたい仕事を用意する
僕は普段から、起業家やCTOなどで「この人と一緒に仕事をしたい」と思える人たちとのリレーションを大事にしています。そして、誰かが今の会社を離れようとしていると聞きつければ、その人がどんな仕事をやりたいのか、じっくり聞き出すように心がけています。もし、その仕事がメルカリ社内で用意できるのであればそれを提示し、本人の希望に合致すれば入社してもらう、という形です。
では、メルカリに入社して何年かたち、その人が「そろそろ違う仕事がしたい」と思うようになったら、どうするか。
新しい希望に合致した仕事もメルカリ社内で提供できるのであれば、ぜひ当社に残って活躍してもらいたい。でも、メルカリでは絶対に提供できないような仕事だったとすれば、無理に引き留めるのも酷だと思っています。
今までの経験から言うと、社内にやりたい仕事がない人をあの手この手で囲い込んだとしても、長続きしません。
人は、やりたい仕事ができている状態が一番モチベーションも高く、楽しくいられるはずです。そうした機会を用意し続けられる会社にすることは経営の仕事そのもの。どの社員にも良い機会を提供するのがベストですし、常にそうありたいと思っています。
山田氏が考える組織運営のポイント
全社で行動規範を共有し、実践できる環境を作る
失敗やミスを責めない。原因を分析し次に生かす行動を奨励する
社員に「一番やりたい仕事」ができる場を提供し続ける
皆さんは、メルカリを創業したシリアルアントレプレナー、山田進太郎会長兼CEOの連載を読んで、どう思いましたか? 日経ビジネスRaiseのオープン編集会議「起業のリアル」では、山田会長がメルカリを成功させられた理由について、皆さんのご意見を募集します。また、編集部が取材するメルカリ小泉文明社長へ質問もお寄せください。
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山田会長はなぜ、メルカリを成功させられたのか?