2番手と3番手が仲良くなると異変が
トップに君臨するチンパンジーはどのような行動を取るのですか。
松沢:群れのトップは、誰よりも食べ物をたくさん食べられ、怪我をした時には、なめてもらえ、毛繕いもしてもらえるような存在です。2番手が木の上でイチジクの実をを食べているときに、そこにトップが来たら挨拶をし、場所を譲ります。トップの前では、2番手が堂々と食べることはありません。逆に、トップは、常に力を誇示して、毛を逆立てたり、立ち上がったりします。これを「ディスプレイ」といいます。面白いのは、トップがいなければ、2番手が同じような行動をとるということです。人間で言えば、社長が不在の間に、専務が偉そうにするといったことを考えると分かりやすいかもしれませんね。
トップ交代のきっかけは、外から見ていても分かるのでしょうか。
松沢:例えば、トップが2番手に毛繕いをしろといっているのに、無視して通り過ぎる。トップの目の前で、3番手が2番手の毛繕いを見せつけるようにする。そういったことが、だんだんと起き始めるのは予兆ですね。人間の世界でもありますよね。社長と廊下で会っても、他の幹部が会釈しないといったようなことでしょうか。最初は、そうした行動に対しても、「おいおい、何なんだ」と言って、2番手と3番手の間に割って入るなどトップは自分の力を誇示します。そのうち、例えば、トップが怪我をしたり、弱ったりしたときに、一気にケンカが始まり、トップが交代する。小さな争いが少しずつ始まり、気付いたらボスが交代していたというケースがほとんどです。普通、1つの「政権」は数年持ちます。ボス交代は、お父さん、その息子、その弟、といったような順番で変わっていくパターンが多いですね。

松沢さんは、チンパンジーの研究を通じて「人間とは何か」という問いに対して考え続けてきていますね。
松沢:人間とチンパンンジーの遺伝子一致率は98.8%といわれ、これはゴリラよりもオランウータンよりも一致率が高い。一方で、人間とチンパンジーの大きな違いの1つは「想像する力」です。人間は目の前にあるものだけではなく、今そこにないものをより広範囲に想像できる傾向があります。例えば、目鼻口のないチンパンジーの顔の輪郭の図を差し出すと、チンパンジーは輪郭をなぞるように絵を描くだけ。一方で、人間の3歳の子供に同じことをしてもらうと、そこに目や口を書き足す。目の前にないものを想像できるからです。想像する力があるからこそ、クーデターについても短絡的に物事を考えず、先のことをいったん落ち着いて考えることができるはずです。
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