日経ビジネス7月10日号は「社長解任 誰がクーデターを起こすのか」と題した特集を掲載した。今春には三越伊勢丹ホールディングスで突然の社長交代があったが、産業界の歴史を紐解いても、同様のトップ交代は繰り返されてきた。なぜ、そして、どのようにクーデターは起こるのか。様々な角度から取材・分析した。

 「トップ交代」は人間の組織に限らず動物の群れでも起こる。動物の世界をみることで、人間世界の組織運営を分析する上で多くのヒントを得られる。人間と最も近い遺伝子構造ともいわれるのがチンパンジーだ。その群れの中では、どのような権力闘争があるのだろうか。チンパンジーを40年にわたって研究してきた京都大学の霊長類研究所・兼任教授の松沢哲郎氏に話を聞いた。

松沢哲郎(まつざわ・てつろう)
京都大学霊長類研究所・兼任教授。1950年、愛媛県松山市生まれ。74年、京都大学文学部哲学科卒業。1977年11月から「アイ・プロジェクト」とよばれるチンパンジーの心の研究を始めた。野生チンパンジーの生態調査も行う(撮影:菅野勝男、以下同)

まず一般にチンパンジーの群れというのはどのような構成になっているのでしょうか。

松沢哲郎氏(以下、松沢):チンパンジーの群れは、基本的に男性(オス)を中心とした集団です。20人程度の群れであることが多く、血縁関係で成り立っています。群れの中にいる女性(メス)は、複数の男性と関係を持ち、5年に一度子供を産む。子供が女の子だった場合は、10歳前後になると、その女の子は群れを出て行く。よって男性が群れに残り続けます。そうして、男系の群れができあがるのです。男性の間では、トップからの序列があります。それぞれ男性には、どうしても消しがたい上昇志向、つまり、いつかは頂点に立ちたいという、欲求が自然なものとして存在しています。

血縁でつながっているため、殺し合いのような闘争にはならないという話を聞きます。

松沢:基本は血縁による結びつきで成り立つ群れのため、グループ内で殺し合いのクーデターのような事が起きるケースは少ないですね。争いがあっても普通は大きな怪我をする程度です。ただときには、他の群れからやってきた女性の連れ子が殺されたり、隣り合う群れ同士で争いがあったりします。

群れの序列を決めるため、どのような方法で闘争が起きるのですか。

松沢:群れの中で男性が順位を上げていき、トップが変わる道筋はいろいろありますが、典型的にはふたつパターンが見られます。1つは群れの中の2番手と3番手が同盟を作る方法。人間で言えば、副社長や専務など、組織の2番手と3番手が同盟を作って、社長を取締役会で引きずりおろすようなイメージでしょうか。2つめがトップが病気や怪我をした場合です。これら2つのパターンが複合的に絡んでトップの交代が起きるケースも少なくないですね。