「アラブの春」はなぜ失敗したのでしょうか。

バーマン:そういった国々には、民主主義を定着させるために必要な前提条件がなかったということだと思います。

 経済力はあっても往々にして石油に頼っており、国内の異なる集団によって分裂している。民主主義の歴史がなく、政党や市民社会、妥協による解決という伝統も制度も存在しない。独裁政権の腐敗と非効率に市民は大きな不満を抱いていましたが、どのような体制を支持すべきかを決めるリソースも合意もなかったのでしょう。

「歴史はまっすぐに進むばかりではない」

そうだとすると、かかる時間はともかくとして、特定の条件さえ満たされれば民主化は必ず起きていくのでしょうか。

バーマン:その答えは私には分かりません。10年前、15年前に同じことを聞かれれば、もっと楽観的な答えができたでしょう。そういう方向に向かっていた頃だったから。過去10年の間に起きた金融危機、あるいはそのほかの危機によって民主主義に対する自信が揺らいだのだと思います。その結果、民主主義に代わる体制を主張する人々が勢いづいた。

 人々が国を自分たちで選択したい、自分たちで統治したいと人々が思わなくなったのだとすれば私にとっては信じがたいことです。歴史というのはまっすぐに進むばかりではありません。独裁国家であっても、時間とともに選択を求める市民の声は強まると思います。そのプロセスにどれだけの時間がかかるのかは分かりません。

 「秩序と成長」と「民主主義」のどちらかを選ばなければならないとすれば、「秩序と成長」を選ぶ時もあるでしょう。「秩序と成長」は生きるために必要なものです。ただ、いったんそれを手に入れれば、ほとんどの人は自分で決断したいと思うようになると考えています。社会に参加したいと多くの人が考え始めると思います。

古代ギリシャの哲学者、プラトンは独裁は民主主義体制の上に成り立つと書いている。

バーマン:私たちが経験しているのは、民主主義国家が市民への責任を完全に果たすことができておらず、多くの問題を解決できなかったために、多くの人々が失望し憤慨しているという状況です。ただ、少なくとも理論的には、基本的なルールは変えずにリーダーを替えることで解決策を見いだせるはず。今は落ち込んでいたとしても、システムの柔軟性やレジリエンスを活用して再起することを願うばかりです。

民主党はトランプの愚かさに対抗するだけではダメ

トランプ大統領が誕生した背景には、グローバリゼーションの拡大に伴う格差の拡大や米国の大概関与に対する不満がありました。

バーマン:米国では所得格差が顕著です。この格差は他の先進国よりも大きい。さらに、米国には過去数十年間で生活水準の改善が見られなかった下位層、あるいは下位中産階級がいます。トランプ大統領がそういった人々に直接話しかけ、彼らの怒りや不満を認識したのはその通りですが、実際の彼の政策はこの問題を修正していません。

 そこで問題になるのは、問題の解決に取り組むことなく人々の不満を聞くだけで支持を維持していけるのか、ということです。人々が怒り、不満を抱えているということは社会科学者も理解しています。民主党と共和党という従来の政党が優れた解決策で人々を説得できなかったということも、それゆえにトランプ大統領のような人間が入る隙を与えてしまったのも理解しています。

 ただ、トランプ大統領と共和党の政策が不平等や社会的流動性の低下(格差の固定化)といった問題で苦しむ人々を救うことはありません。ある時点で、彼らは目を覚ますかもしれない。真の問題は、東海岸や西海岸に住む私たちのようなエリートやマイノリティ、自分たちよりもうまくやっている人々に対する怒り。そして、これは民主党が取り組むべき課題です。

 野党であるならば、優れた政策で人々を納得させなければなりません。相手の愚かさに対抗するだけではだめです。否定的なものだけでなく、肯定的なものも必要です。民主党にはトランプ大統領に対抗できる人材はいますが、もっといい案を提供する候補者がいると有権者を説得できなければ、民主党は票を獲得することはできません。