ただ、同時に関税措置を通して、どのような良い結果を得られるのかということを知ることも重要です。貿易戦争ではいい結果を得られません。同盟国と協力して中国に対応すべきです。米国がTPPに復帰すべきだと私が主張しているのもそのためです。

「独裁政権に安全な世界を作ろうとしている」

中国の一党独裁・国家資本主義は民主主義・自由市場経済とは対極の存在です。ただ、途上国や非民主主義国家の中には中国モデルを理想と思うところもあります。中国モデルは西欧モデルの代わりになり得るでしょうか。

エコノミー:中国はスーダン、南スーダン、エチオピア、ケニア、ナミビア、ジンバブエ、ラオス、カンボジア、ベトナム、南米の国々で公務員の人材開発を支援しています。何のために訓練しているのかと言えば、政治的な安定を維持するためです。いわば、独裁政権にとって安全な世界をつくり出そうとしているんです。

 米国は「民主主義に安全な世界を作る」と言いますが、中国は独裁政権にとって安全な世界を作り出そうとしています。ただ、自国の独裁政権が強化されるのを望まない人々は抵抗しています。「一帯一路」構想の国々、パキスタンでさえも抵抗する人々が出ていますから。

 中国にとってはグローバルな政治経済のゲームのルールを変えるうえで、こういった途上国や独裁政権を支援することは重要です。国連の票数は国の大小ではありません。人権やインターネット主権などの問題で自国の主張を押し通すのに使えると考えているのでしょう。発展途上の小国と協力し、発展を支援するのと同時に政治体制も変えていくという一帯一路は大きな論点です。

それを防ぐために米国は何ができますか?

エコノミー:トランプ政権以前の米国はそのために多くの事を成し遂げてきました。市民社会や法の支配、自由民主主義と自由市場経済の基礎となる制度を築くために、米国は数多くの非政府組織と連携してきました。米国は戦後の歴史において極めて重要な役割を果たしたと思います。

 トランプ政権はこれが優先事項ではないのでしょう。例外はマティス国防長官です。マティス長官は日米豪印の「自由で開かれたインド太平洋戦略」を支持しています。自分が率いる国防総省だけでなく、国務省の重要性を説くなど外交の価値を認識しています。トランプ大統領にはそういう関心はありません。

今の中国の急旋回を予想できた専門家はいない

過去には中国の政治体制や経済成長が崩壊するという見方も数多くありました。そういった中国崩壊論についてはどう思いますか?

エコノミー:われわれは数十年間、「中国がああなる、こうなる」という予想をしてきました。でも、習主席の中国がここまで鋭い転換をするというのは誰も予測できていなかったと思います。

 2011年や2012年頃を振り返ると、中国では政治改革や環境問題、法の支配などに多くの人が関心を寄せていました。ところが、習主席が登場して厳しい取り締まりを実施、状況は大きく変わりました。最近は、中国について予測するのは問題だと思うことがあります。

 ただ、中国人はほかの国の人々と本当に違うのでしょうか。自分の意見を表現したり、政治に影響を与えたいと思ったりはしないのでしょうか。私はそうは思いません。LGBTや環境など様々な抗議活動が起きていますよね。中間層が反旗を翻す可能性はまだあると思います。政治改革の可能性が消え去ったということではないと思います。

米朝の間で蚊帳の外になりかけた中国

トランプ大統領は関税など中国に対して強硬な措置を講じています。これは中国を動揺させている?

エコノミー:最悪だと思っていますよ。中国やアジアにおけるトランプ大統領の優先事項を考えてみてください。一つは朝鮮半島の非核化、もう一つは中国との貿易赤字を減らすことです。

 朝鮮半島の非核化について、中国は蚊帳の外だと感じていました。初めは北朝鮮と米国の重要な仲介役でしたが、韓国の文在寅大統領が出てきたことで、トランプ大統領にとって中国は必要ではなくなりました。

 トランプ大統領が金正恩・北朝鮮労働党委員長と会談すると発表した直後の3月下旬、私は北京にいましたが、政府関係者はみな「えっ?」という感じでした。プロセスから取り残されるのではないかと懸念していたんです。しかも、金委員長は米韓軍事演習の停止を要求せずに核実験の停止を発表しました。これについて中国はとても不満に感じました(その後、米韓首脳会談後、トランプ大統領は米韓軍事演習を中止する方針を打ち出した)。