:一般的に言って、中国の外資系合弁会社ではそういう風通しの良さが足りないところも少なくないのではないでしょうか。その意味で、シルフィは東風日産という一企業の成功のシンボルであると同時に、中日企業文化の融合の産物でもあると思います。

本音をぶつけ合えるからこそ、相互理解も深まると。

打越:はい。例えば今回のような取材でも、私は陳さんが何を話すか、事前にすり合わせをしなくてもわかります。陳さんも私が何を言うかわかるはずです。

 それができるのは、いつもお互いに話をしているからです。ちゃんと本音をぶつけ合ったうえで、「この件はこうしましょう」とひとつひとつ決める。陳さんが言いたいことを私に率直に言ってくれるのは非常に有り難いし、私だって遠慮なく陳さんに怒っています(笑)

「いつも話をしている」から「話さなくても分かる」のですね。では、意見がぶつかりがちなのはどんなことですか。

東風日産乗用車の打越晋総経理(社長に相当、役職名は取材当時、以下同)

打越:あまり具体的な話は勘弁していただきたいのですが、例えば、私たちには日本からいろいろな連絡や要請が来ます。「ある車種でこういう仕様が決まりました」とか、「今年の販売目標はこうしたい」とか、「販促活動の予算はどのくらいにして欲しい」とか。

 一方、陳さんは中国での販売目標に対して大きな責任を負っています。それを実現するため、現場の実情を日本側にわかってもらいたいという強い気持ちがあります。それだけに、ちょっと現場の感覚と乖離した要請が来た時などは、彼は「総経理、これは何とかしてください」と直談判に来ますよ。

なるほど。風通しのよい文化のルーツはどこにあるのでしょう。

危機感の共有から始まった

打越:先輩方から聞くところでは、2003年に東風日産を設立した当初は日本側と中国側の意思疎通がなかなかうまくいかず、お互い大変苦労したそうです。しかし日中の文化の溝を超越しなければ、合弁会社の成功はあり得ません。日中双方のリーダーがそういう危機感を共有したところから、「東風日産は日産でも東風でもない、独自の企業文化を持つべきだ」という発想が生まれました。

 その後も、日中外交関係の悪化を含めて、私たちは厳しい局面に何度も遭遇しました。そんな時、中国人社員たちは「日系企業」のためではなく、東風日産という中国に根付いた「自分の会社」を何とかしようという意識で、一致団結して頑張ってくれました。こうした経験の積み重ねのなかで、企業文化がさらに磨かれ、強くなった。そう言えるのではないか思います。

独自の企業文化の効用について、もっと例を教えてもらえませんか。

:例えば市場調査です。日産を含めて、グローバルな自動車メーカーは世界各国の市場について様々な調査を行っています。しかし、それぞれの国の文化に対する深い理解がなければ、調査は表面的なものに終わりかねません。

 中国市場について「こうこうです」という調査結果が出ても、なぜそうなるのかという理由や、その文化的背景は、やはり中国人でないと深い分析ができません。さらに中国市場だからといって、中国人なら誰でもわかるとも限りません。ある地方や都市の文化は、やはりその地方や都市に長く暮らしている人だけが深く知っているからです。

 だからこそ、日中双方がしっかりコミュニケーションをとり、お互いの文化への理解を深める必要があります。そうでないと、調査結果のうわべだけを見て誤った判断を下してしまうでしょう。

調査結果の裏にある事実を見落としてしまうと。