打越:やはりクチコミだと思います。中国のお客様はメーカーが言うことよりも、家族や友人など自分の信頼している人の評価をとても気にします。また、若い世代を中心に情報の取り方が変わってきており、インターネット上でのユーザーのクチコミも重要です。

:高評価のクチコミを維持するのは容易なことではありません。時代の流れとともに消費者のニーズは変化します。ですから、不断の改善を通じて商品力を磨くことも差別化のポイントです。

 東風日産のクルマは小さな改良は毎年、外観の変更を含む中規模のマイナーチェンジは2年に1回のペースで実施しています。シルフィは今年3月のマイナーチェンジを機に、レーンキープサポート(車線逸脱防止支援)機能や後方車両検知警報など、日産の最新鋭の安全装備を搭載しました。

東風日産の「シルフィ」。日産「ブルーバード」が源流の小型セダン。現行モデルは2012年の北京モーターショーで登場した。中国および日本仕様は「シルフィ」、北米仕様は「セントラ」の車名で販売されている。中国仕様は全長4631mm×全幅1760mm×全高1503mm。エンジンは排気量1600ccと1800ccの2種類。実売価格は10万~13万元(約155万~200万円)

 実は、中国のお客様のなかには「日本車は欧米車に比べて安全装備が劣っている」と頭から思い込んでいる人もいます。そうした誤解も軽視せず、お客様の心の声に耳を澄ませ、改善をしっかりアピールする。お客様が日本車に対して抱いているプラスのイメージは強化し、マイナスのイメージは払拭していく。そんな努力を重ねています。

「クチコミ」を支える地味な改良の積み重ね

日本市場に例えれば、往年のトヨタ「カローラ」や日産「ブルーバード」のように、「このクルマを買っておけば間違いない」という評判を確立したと考えればよいのでしょうか。

打越:現行のシルフィは2012年に投入した二代目ですが、発売から4年目に入っても好調な売れ行きが続いています。これは、やはりお客様のクチコミの下支えがあってこそです。

 先ほど陳さんも説明したように、東風日産は2006年に先代シルフィを発売して以来、中国のお客様をしっかり見て、お客様が求めている理想のファミリーカーを地道に作り込んできました。それが次第に評価され、クチコミとなって広がっていきました。

 シルフィの商品力はハードウェアとしての優秀さだけでなく、東風日産という企業ブランドへの信頼や、ディーラーのしっかりしたサービスなど、総合的な評判の上に成り立っています。それらを磨き続けた結果、Cセグメントのセダンを買うなら、全員ではないにしても相当な部分のお客様が、候補車のなかにシルフィを入れてくださるようになった。私はそう理解しています。 

:うちの総経理は良いことを言いますね(笑)。私も長年の努力の積み重ねこそ、シルフィが毎年販売を伸ばしている原動力だと思います。

顧客の評価については価格も重要な要素のはずです。実際、中国の消費者はクルマの値段にとても敏感ですよね。競合車に負けない値引きをして、販売量を確保している面もあるのでしょうか。

打越:それはありません。私たちは新型車の発売時などに色々な市場調査をしますが、実はクルマの価格に対する消費者の意識について面白いデータがあります。

 中国のお客様はもちろん値引きは歓迎です。ところが、ある水準を超える値引きを提示すると逆に購買意欲が下がるという結果が出てきました。

値段を下げすぎると、信頼は壊れる

打越:例えばメーカー希望価格が10万元(約155万円)のクルマの場合、値引率が5~15%ならお客様は喜んで受け入れます。ところが、30~40%も値引きすると「このクルマは怪しい、大丈夫なのか」と疑い始めるんです。

何か品質に問題があるんじゃないかとか、もともとの価格が割高なのではないかと不安になる?

打越:そういうことです。私たちが仮に赤字覚悟で販売台数を稼ぎたいと考えても、値引きすればするほど売れるわけではないんです。

 (陳氏の方を向いて)ねえ陳さん、どうですか。本当は私に内緒で値引きをしているんじゃないの?

:(苦笑いしながら)まさか。私はシルフィが価格の安さで売れていると思ったことは一度もありません。そもそも、市場にはシルフィより安い競合車がたくさんありますからね。

 いま総経理が紹介した調査では、もうひとつ興味深い結果が出ました。一定水準以上の値引きを提示すると、新規のお客様に疑いを持たれるだけでなく、それ以前にクルマを購入していただいたお客様の気持ちを害してしまうんです。それは、私たちにとって何よりも大事なクチコミによる評判を傷つけてしまいます。