中野:会社設立の手続きにしても、経理のやり方にしても、ずっと走りながら手探りで学んでいきました。最初の頃は取引先の邦銀や、そこから紹介してもらった日系企業を訪ねて、いろいろ教えてもらいました。この方法はすごく勉強になるうえ、おカネがほとんどかかりません(笑)。

 また、僕たちが採用した中国人社員から現地の事情を教えてもらうこともありました。ただ、当初は自分の理解不足のために、彼らとよく口論になりました。例えば、ある事について「中国ではできません」と説明されると、「それじゃ前に進まないじゃないか」、「日本なら当たり前だぞ」とつい言ってしまう。そういうストレスは大きかったですね。

中国人社員のほとんどは、入社前は日本式のお風呂に入ったこともなければ、日本流の「おもてなし」の考え方も知りませんよね。

中野:彼らが日本のことを知らないのは仕方がないし、それは僕も理解しています。とはいえ、それ以外の仕事に関する常識や手順についても、中国と日本の間には見えないギャップがいろいろあるんです。

 例えば、日本人は複数の仕事を抱えると先に指示されたものから処理するのが普通ですが、中国人は後から指示されたものの優先順位がいつの間にか上がっていることがよくあります。これは直近に言われたことを先にやっているからで、彼らにとっては普通なんです。でも日本人の感覚では、先に指示した仕事を勝手に後回しにされてついイライラしてしまいます。これは働き方の違いなのだという割り切りが必要です。

 また、先日も部下に資料の見直しを指示したら、「出来ました」と持ってきたので確認すると、中国語から日本語への翻訳を見直しただけでした(苦笑)。そうじゃなくて内容を見直さなきゃダメなんですが、彼らは大真面目でやったつもりになっている。やる気がないわけじゃないのですが、物事を本質から考える習慣があまりなかったのかもしれません。

会社の経費ではダメ、自腹でないと腹を割らない

常識や習慣の異なる部下とうまく付き合うコツは何でしょう。

中野:よく言われることですが、中国人は仕事上の「上司と部下」の関係よりもプライベートな「個人と個人」の関係を大切にします。日本人のように、嫌いな上司に対しても「仕事だから」と割り切って従うとは限りません。

 逆に上司の立場で言えば、部下との間に個人的な信頼関係を築かないと、ここぞという時に一生懸命やってもらえない。だから、僕もよく部下に怒っていますけど、心の中では「彼らは家族と同じなんだ」といつも自分自身に言い聞かせています。

 普段から彼らを食事に誘ってポケットマネーでご馳走したり、お土産を買ってきたりといった気配りが大切です。ある時、本社の上司が「そういうことなら会社の経費を使ってもいいぞ」と言ってくれたんですが、実はそれではダメ。信頼関係のためには、個人のおカネでご馳走したり皆で割り勘にしたりすることにこそ意義がある。日本人には、この辺りの機微がなかなかわかりにくいですね。

部下の気持ちへの想像力が求められると。

中野:はい。若い中国人社員たちを見ていると、人間的には純粋で気持ちのやさしい子が多いんです。真面目にこつこつと頑張る子も、むしろ日本以上に多いと感じます。