
(前回から読む)
上海女性に大人気の日本式スーパー銭湯「極楽湯」。その1号店を立ち上げるため現地に乗り込んだ日本人スタッフのなかには、中国語を話せる者も中国ビジネスの経験者もいなかった。そのうえ、本社からは「コンサルタントに頼らず、何事も自分たちで解決しろ」と命じられ…。
言葉も文化も異なる中国で次々に降りかかる難題に、彼らはどう立ち向かったのか。極楽湯インタビューの「現場編」では3人のキーパーソンのお話をうかがった。今回は店舗建設および営業の責任者を務めた、極楽湯執行役員海外事業部長(開発担当)の椎名晴信さんです。
(※ 本連載のインタビューは昨年12月~今年2月に行いました。筆者の事情により掲載が遅れたことをお詫びします。肩書きは当時のものです)
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極楽湯の上海進出にあたり、椎名さんは店舗建設の施工管理と営業体制づくりを任されたそうですね。現地に赴任する前は、日本でも店舗開発の仕事をしていたんですか。

椎名:いや、実を言うと日本では新店舗の立ち上げに携わったことがないんです。当社には2005年に転職で中途入社し、複数のお店で店長を経験した後、地域の店舗を統括するスーパーバイザーになりました。
僕が上海に赴任したのは2011年6月ですが、その直前は8つの直営店を統括していました。店長時代もスーパーバイザーの時もすべて既存店だったので、特に建設関係については知識も経験もない。いわばずぶの素人ですから、着任当初は「こういう店を作りたい」という理想よりも、「とにかく最後までやり切るしかない」という使命感の方が強かったです。
不安や抵抗感はありませんでしたか。
椎名:それはなかったですね。と言うのも、僕はもともと海外事業の立ち上げを経験してみたいと思っていたからです。国内事業は安定している半面、どうしてもルーチン的な仕事が多くなります。それは悪いことではありませんが、僕の性格は同じ仕事が3年続くと飽きてしまう(笑)。もっと「血湧き肉躍る」経験がしたくて、もしかしたら海外にあるんじゃないかと。
実際に中国に赴任したら、もちろん最初は右も左もわからず、日本ではまず経験しないであろう嫌な思いや歯がゆい思いをたくさんしました。でも、いま振り返ってもそれは自分にとってマイナスではなかった。むしろ、中国に来られてよかったと思っています。
進まない工事に、ヘルメットを2個割った
とはいえ、事業をゼロから立ち上げるプレッシャーは相当だったでしょう。どんな経験をされたか、苦労したかを聞かせていただけませんか。
椎名:上海に赴任した時、すでに1号店の場所は決まっていました。もともと工場として使われて建物を借りて、店舗に改築する計画です。実際に工事をするのは中国の建設会社ですが、僕の任務はその進捗を監督し、予定通りにお店をオープンさせることでした。
ところが、もう最初からトラブルの連続です。始めのうち一番困ったのは、とにかく工事が前に進まないこと。
というと。
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